第16話 もう一人の男子マネージャー
もう一人の1年生マネージャーは、かわいらしい男の子だった。
「僕、相沢先輩に憧れて入部しました!」
と、最初に言われた。僕のようなマネージャーになりたいそうだ。照れるな。
彼、穂高くんはよく働く。力仕事も女子よりは任せられるので、頼りになる。2年生の女子マネ二人はもう度外視。暑いからと日陰で休んでいたり、遼悠の事ばかり見ていたりするから。
「瀬那くんと穂高くん、良かった。今からユニフォーム取りに行ってくれない?事務室の前に置いてあるから。それで、一年生に配っておいて。」
顧問の小野寺先生は、僕らの姿を見つけると、足早に近づいてきてそう言った。それで、僕と穂高くんと小野寺先生の3人で、事務室まで歩いて行った。
「いやー、男子のマネージャーが入ってくれて助かるよ。今までは部員に運ばせてたんだけどね、練習中だと監督に断らなくちゃならないからさ。君たちにはいつでも頼めてほんと楽だよ。」
小野寺先生が歩きながらそんな事を言った。僕は曖昧に笑った。
事務室前に段ボールが2個あって、それぞれ僕と穂高くんで持って運ぶ事になった。小野寺先生とはそこで分かれた。
運びながら、僕は穂高くんに話しかけた。
「穂高くんさ、どうしてマネージャーになろうと思ったの?」
「先輩、くん付けなんていらないですよ。穂高でいいです。前に言ったじゃないですか。僕は瀬那先輩に憧れて入ったって。」
最近、監督がマネージャーの事を男女問わず「くん付け」で呼ぶので、僕もそれに習って「穂高くん」と呼んでいた。監督は、僕がマネージャーになる前は「瀬那」と呼び捨てだったが、今では僕のことも「瀬那くん」と呼ぶのだった。けれども、僕が他の男子部員を呼び捨てで呼んでいるのに、直属の後輩?である穂高の事をくん付けで呼ぶのは確かにおかしいかもしれない。
「ああ、じゃあ、穂高さ、それは前に聞いたけど、僕の仕事なんて見たことなかったんじゃないの?なのに憧れてなんて。」
「テレビで見たんですよ。東東京大会の決勝戦。」
ああ、あれか。って、僕が泣いた時じゃなかったか?
「で、でも、僕は映ってなかっただろ?」
「映ってましたよ。ベンチで・・・。」
うわー、何が映ってたって?僕だって録画して見たのに、全然気づかなかったぞ。
「ベンチで、瀬那先輩が選手を笑顔で励ましているところが。」
「あ・・・そう?そうか、確かにベンチがちらっと映ったりしたかな。」
あー、びっくりした。僕が泣いているところじゃなくて良かった。
「でも、野球やってたんだろ?」
僕が穂高に聞くと、
「小学生の頃にやってましたよ。僕、ピッチャーになりたくて。でも、なれなかったんです。だから中学では野球部ではなく、卓球部に入ったんですよ。」
「そうなんだ。」
僕よりも早くに見切りをつけたんだな、自分に。
「ピッチャーか。」
「全然ダメだったんですよ。投げられるなんて思わないでくださいね。」
穂高は笑いながらそう言った。
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