第15話 有効期限

 「どうして一駅先まで歩くんですか?」

ほら、また戻ってきたよ。芽衣ちゃんは、校門を出た辺りでまたこの質問をした。

「どうしてって・・・。遼悠、どうして?」

僕はもう、こうするしかなかった。遼悠に聞くしか。

「瀬那と話したいからだよ。」

うっわ。ちょっとだけドキっとしちゃったよ。

「お二人仲良いんですね。」

それしか言うことがないようだ。

「こいつは俺のモノだから。」

遼悠はそう言うと、僕の首に腕を絡めた。

「え?どういう事ですか?」

芽衣ちゃんが聞く。そりゃそうだ。

「あ、あのね、春の甲子園に連れて行ったら、何でも言うこと聞くっていう賭け、みたいな?」

僕があたふたしながら言い訳すると、芽衣ちゃんは、

「なるほど、そういうことだったんですね!」

合点がいったみたいだった。

「その賭け、いつまで有効なんですか?」

「え?」

考えてなかった。そうだよな、一度の賭けに勝ったからって、ずっと強要するのはおかしいよな。

「そりゃあ、夏の甲子園の予選までじゃないかな?」

僕はそう言って、遼悠を見た。遼悠は、珍しく驚いた顔をしている。ちょっと面白い。

「なら、夏の甲子園に連れて行ったら、その後もずーっと俺のモノだな?」

「はいはい。でも夏はそう簡単じゃないよ。」

「分かってるよ。」

夏は出場校も多いし、各校力の入れ具合も違う。

 それにしても、「俺のモノ」と言ったって、結局一緒に帰っているだけだ。学校では同じクラスなのに、休み時間に一緒に過ごすわけでもない。キスしたのだって、あの一度きりだし・・・。まさか、してみたら気持ち悪かったとか?それって意外とショックだな。

 それなら、なぜ一緒に帰りたがるんだ?もしかして、友達が欲しいだけ?

「なあ、そもそも俺のモノって何だ?つまり、友達になって欲しいって事なのか?それなら、賭けとか要らないだろ?」

僕がそう言ったが、遼悠はきゅっと口を結んだだけで、何も言わなかった。

 そのうち、例の公園の前を通りかかった。キスをした公園。

「なあ、もしかして、あの時・・・良くなかったの?」

僕が小声で言うと、遼悠は横目で僕を見て、それから僕の向こうにある公園の方をちらっと見た。

「いや。」

「でも、あれっきりしないじゃん。」

「・・・して欲しいのか?」

「ち、違うよ!」

芽衣ちゃんは、ちょっと離れて歩いていた。なので、僕たちは小声でやりとりしているのだ。

「賭けでああいう事するのは、違うなーと思ったんだよ。するなら、ちゃんと・・・。」

そこで、遼悠は言葉を切った。

「ちゃんと、何?」

「どうしたんですか?」

芽衣ちゃんが僕たちの会話に気づいて近づいてきたので、その話は立ち消えになった。ちゃんと、なんだろう?

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