第11話 リアルと仮想の二つの恋
話してみると紅い瞳の少女は、世間知らずの所はあったが、昌治の言葉を良く聞き、考えて答え、時には笑った。
その長い青い髪と、瞳が大きく整った幼い顔立ち。
真っ白なサマードレスを着て、その姿は霧のように希薄な存在も、天使のように人間離れしていて麗しい。
少女は少々古風で、きれいな言葉で話す。
彼女は拡張現実の中に住む永遠の処女。
僕は少女に惹かれてしまう。少女はまさに妖精なのだ、男の理想なのだから。
「私が望むのは本当の愛」
少女の言葉。話せば話すほど、心が少女に捕らわれていく。
人間として肉体を持つ愛と違い新鮮だった。
幼さなさが残る少女は、まるでどこかに捕らわれていたように、汚れを知らず純白の心を持ち真実を話す。
僕は自分が普段どれだけ、虚無な言葉を連ねているのが良く解った。
人生を斜めに見ているのは、自分が傷つきたくないからで、そんな見かけだけの、大人の態度だと解る。話せば話すほど、心が少女に捕らわれていく。
妖精とのプラトニックな愛は、どこかで求めていた心を得る事が出来た。
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獏は十代の頃、心を無くす程の失恋をした。
自動車の免許を取る為に、教習所に通っていた昌治は、偶然に隣に座った女の子に心を奪われた。
七つ年上の二十五歳の垢抜けた美人。まだ、地方の高校に通っていた、僕にとって東京帰りのその女はまぶしかった。教習所へ通うのが楽しくなり、その女との会話も増えていく。
デートも何度かした。大人の女性への憧れと恋心は大きくなるばかり。
そばにいると大人の女の薫りがした。
同級生の女の子が、僕に教えてくれた。
「あの女の人と、あまり親しくしない方がいいよ」
「なぜ? 二人はうまくいってる。年の差も僕も彼女も気にしていないし」
同級生は首を振った。
「あの女の人、来月結婚するの。その為に東京から帰ってきたのよ」
翌月その女は幸せそうに結婚した。
それから、僕のの恋愛は変わった。
傷つかないように、相手を決して深くは愛さない。
人は年齢を重ねるうちに、恋愛の条件は、年収、外見、学歴が付加され、相手を想う心は条件には入らなくなった。
「私は二人に分けられてしまった。そして命令で人を探しているいるの。でもね、私が本当に欲しい者は……あなたのような人」
触れることも出来ない少女の言葉と表情に、昌治は恋心を感じていた。
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……週末になった。
バイトの同僚、気になっていた女の子と会う約束があった。
最寄り駅で待ち合わせた。
「ごめんなさい、休日なのに」
「いや、気にしなくていいよ、僕も会いたかったし」
「え?」
「フフ、さあ、とりあえず、お昼ご飯を食べようか」
先日、拡張現実の紅い目の少女と話をしたからなのか、いつもは率先して話などしない僕が、気の利いたセリフを口にしていた。
唯一の僕のなじみの、小さなレストランへ彼女を連れて行った。
彼女が好きそうな、お勧めメニューをいくつかあげ、麦芽がまとめて注文してから、たわいもない話を、彼女と続ける、僕には非日常だが彼女は僕を見ながら、よく笑った。
「二日間お休みで心配しました。事前の届け無しで、お休みするのは珍しいですよね」
休んだ二日間は、紅い目の少女と対話を楽しんでいた。
深夜、僕が眠らないと現れない少女、そこで深夜のバイトはお休みだった。
「そうかい? まあ、僕もたまには、体調を崩す時もあるさ」
「そうですよね、でも私……心配になっちゃいます」
少し、か細くなった声で、下を向いたバイトの女の子。
「そうか、心配してくれてありがとう」
不思議に自然に出た、優しい態度と言葉を聞いて、ますます下を見た彼女。
「あの、なんて言うか……あなたがなにか変わったような気がします」
「フフ、そうか? 前の方が良かったかな?」
右手を大きく振って、彼女が答える。
「いえ、そんな事ないです、なんか魅了的です。何か優しさと余裕が感じられて、大人って感じです」
「それで、相談ってなにかな?」
少し赤くなった彼女は、下を向いたまま言った。
「ここでなくて、静かで、二人きりになれる場所がいいです」
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