第9話 ネットの中の親友
ネットでの情報は本当の事なのかは、確かめようがない。
だが僕らはリアルの姿や、リアルで仕事は何をしているかなど興味は無かった。
ただアスタルトだけには、僕は自分の身の上を話している。
そして僕にも身の上を明かしてくれている。
僕はそれを事実だと思っているし、例え嘘でも、ネットの世界では問題は無い。
例えれば、スタイル抜群の女戦士が、四十歳の男の警備員。
それでも構わない。違う自分を作り、リアルとは違う生き方が出来るから、みんなネットの世界へ入るわけだから。
そんな淡くて薄い関わりの中でも、アスタルトに対しては特別な感情を持っている。そして、その親近感はアスタルトも同じだと僕は思っている。
何の保証も無い確信。ホントにネットをやらない人には、オカルト話だ。
さて、アスタルトの急な電話だが、いつもとおり強引なパーティーのお誘いだった。
「え? 暇だから、今から付き合えって? しょうがないなあ」
時間は深夜一時を回ったばかり、ギルドの集合時間の二時まではまだ時間がある。僕はスマホにヘッドセットを繋げ、それから部屋の壁際の小さな机へ向かう。
机の前の大きめの倚子に座り、PCの電源をつける。
ネットゲーム命の僕は、PCはもとより倚子にもお金をかけている。
何時間も同じ姿勢でゲームをするのだから、座り心地はとても大切だ。
でも、僕が日常でこだわるのは、その二つ。
部屋の構成物は出来るだけ安価にしているし、食事もコンビニで買う弁当が高級品。レストランに食事に行くのは女将さんがいるあの店くらい。
いつも気になる、ベッドの軋みや、しめった布団の改善も考えてない。
「え、あれ、諦めてないの……う、分かったよ、つきあいます」
PCを起動している間に、ワンドアの冷蔵庫の上に乗っている、菓子パンを取りに行く。袋を開けながら、最近、アスタルトが欲しがっているアイテムの話をする。
エリアボスと呼ばれる、特別なモンスターが低確率で落すレアアイテム。
ネットゲームをしている人間なら、必ず欲しいレアアイテムはある。
僕も欲しいアイテムがあるが、それは十人以上でなければ、倒せないエリアボスが持っていた。僕が欲しいアイテムを取りに行く為に、人を集めるのは難しかった。
でもアスタルトの欲しがっているレアは比較的簡単な部類。
「まあね、前衛には攻撃力上がるから、欲しいのは分かるけど……でもあのダンジョンは、二人じゃ無理……え、もうパーティー募集しているって?」
アスタルトは行動的。チャットでゲームの中にいるプレイヤーに声をかけまくり、 既に四人のプレイヤーを捕まえていた。
アスタルトが欲しい、レアアイテムを落すモンスター迎撃に出撃出来る状態。
いつもながらの、アスタルトの素早い行動には感心する。
ネットの中では別の自分にはなっているが、見知らぬプレイヤーに声をかけて、お願い事をする、そうゆうのはゲームでも僕には苦手な行動だった。
「ちょっと、待って、直ぐに準備する」
慌てて、OSの起動が済んだPCのアイコンをクリックして、ゲームを起動する。
「まったく、予定は先に言ってよ、他のプレイヤー待たせたら悪いだろ」
初心者に多いが、ゲームに存在するプレイヤーキャラをNPCだと思っている人が、たまにいる。NPC(ノンプレイヤーキャラ)つまり、人間が操っていないキャラ。ネットゲームでなければ、普通はゲームのキャラは全てNPC。
どんだけ待たせようが、文句は言わない。
だけど、ネットゲームは人間、プレイヤーが操るキャラが存在する。
その辺を理解しないと「アイツは人の都合を考えない」と評判が立ち、クエストやレアモンスターを狩る時に協力を得られなくなる。
リアルでも、集合時間に遅れたら、良い評判は立たないだろう。
僕は人に干渉されるのが嫌だが、誰かに僕の事を悪く言われるはもっと嫌だった。殆ど人との接点を持たない、今の生活を寂しいとか思った事は無かったが、このゲームのプレイヤーの繋がり、多くのプレイヤーと知り合い、気が合った者とフレンドになる世界。そこには学歴も、収入も地位もない、この世界は大切だ。
ゲームの世界で、僕とアスタルトはジョブも、気持ちも息も合っている、リアルの世界の誰よりも長く一緒に過ごすフレンドだった。
アスタルトは前衛の攻撃役のモンク。
敵の注意を引く、ヘイトコントロールと、通常ダメージを与える事が大事な仕事だ。僕は後衛からモンスターの弱点を突く魔法を打つ。
ジョブの組み合わせでも前衛と後衛、性格も積極的と慎重、組み合わせは良かった。
ゲームをやらない人から、言われる事がある。
「この膨大なゲームへかける、時間と情熱がもったいない。リアルの世界で使えばいい」
確かに一理ありそうな意見。
でもリアルの生活で、僕はネットゲーム以外に、集中し情熱を掛けるものは見つからなかった。特別に何かを始める気も起こらない。
やはりゲームの世界以外には、この情熱と時間は使えそうもない。
長時間ゲームにかける情熱の元になっているのは、ゲーム内容だけではない。
ゲーム中の仲間の存在。フレンドがゲームを続ける大きな要素になっている。
一番仲がよいアスタルトには、実際には会った事もないし、本名も知らない。
住んでいる場所も知らない。でも、ゲームの中では仲が良いしウマが合う。
たぶん僕とは、年齢も環境も全て違うだろう。
でもゲームの世界では、そんな事は関係ない。
僕はアスタルトの事が好きで本当の友達だと思っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます