第8話 ネットでの繋がり
ガチャ、部屋の鍵を開けて、誰も待っていない僕の部屋に入る。
小さな赤い豆電気が微かに部屋の中を照らす。
ベッドに腰掛け、照明もつけずに、しばらく小さな赤い点を見ていた。
積極的にではないけど、僕は自分の望み通りの生活を送っている。
それでも将来の不安や、リアルの世界で取り残される孤独感もある。
色々考えると巨大な不安に押し潰されそうになる。
それが、大人の言う世の中の理「将来」……ちゃんと生きようとしないから、僕は将来に不安を持つのか。
得体の知れない不安、それが僕を生かしている。
嫌なバイトをしているのも、その不安からだ。
そして僕が理想とだと思うネットの世界に、ますます惹かれていく。
でも僕の大事なネットの世界も、大人が造ったもの。
しばらく言われた事の無い「僕の誕生日」を祝う言葉。
そういえば、さっきスマホで赤い瞳の少女が選択を即してきていた。
スマホを起動して、彼女の問い「私の事好き?」に「はい」と答える。
この間、デートしたバイトの女の子を思い出していた。
「紅いスマホのメッセージで、バイトの女の子を思うなんて、変なことを考えているよな。それにしても今日は疲れたなあ」
眠くなって僕は、ゴソゴソとベッドにもぐり込む。
敷きぱっなしの布団が湿っていて少し冷たい。
「今度の休みに布団を乾かそう」
いつも思うだけで実行出来ない事を呟いて、僕は眠ってしまった。
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「……くん、起きて。ねえ目を覚まして」
深夜の女の子の声。紅いスマホが語るアラーム。
目が覚めると深夜一時過ぎだった。
ペットボトルの残りのぬるい水を飲みながら、ホッと息をつく。
「良かった。寝過ごさなかった。今日のギルドの予定は……クエストは何をやるんだっけ?」
深夜二時から始まる、毎日の習慣になったネットゲーム。
ネットワークを介して、世界中の数十万ものプレイヤーがサーバー同時に接続している。
ネットの世界の剣と魔法の広大な世界。そこで僕は高レベルの魔法使いだった。
深夜の冒険はネットのプレイヤーとパーティーを組んで、クエストと呼ばれる小さな物語を解いていく。
プレイヤーはギルドのメンバーだったり、フレンドだったりするが、見知らぬプレイヤーと一夜かぎりのパーティーを組んだりもする。
リアルで知らない人間と一緒に行動するなんて、僕には一生無い事だろう。
だが、ネットの世界ではゲームに限らず、見知らぬプレイヤーと一緒に行動したり、会話をしたりするのは当たり前の事、
リアルの顔が見えないこの世界は、僕が要領が悪いアルバイト店員でも、大会社の社長でも、何の差別もない。
クエストには殆ど、ボスが存在しており、バトルは避けられない。
パーティーに参加するキャラには戦いのパートの役割があり、力を合わせてゲームのクエストをこなしていく。僕の魔法使いは、魔法の力で攻撃と回復を担当する。
ふと見ると、ベッドの上でチカチカと点滅する光。
「うん? 音声チャット……アスタルトかな」
音声チャットアプリは、お互い同じソフトを持っていれば、無料で会話が出来、複数の人間での会議電話も可能。
パーティーを組んでクエストを行う場合にとても便利だった。
それに見知らぬネットのフレンドに、携帯の電話番号を明かす必要も無い。
確かに僕は、ネットのフレンドは、リアルの友人よりも親近感を持っている。
しかし、全てのフレンドが、好意的であるとは言えない。
携帯番号を悪用されたり、ネットで晒されたりする。
例えネットで上ではどんなに信頼出来ても、リアルの人物は分からない。
アプリを起動して、ネット電話で会話を開始する。
現れたアスタルトの画像には、ゲームで使っているキャラの姿が映る。
このソフトは、テレビ電話が可能で、相手の顔や自分の顔が通話中に画面に写る。なかには自分の画像でそのまま話す人もいるが、僕は自分の顔を知られるのは嫌だ。スマホに自分の好きな絵をアップロードして、僕の顔の代わりにアバターとして使う。
アスタルトの見ている像には、僕がゲームで使うキャラの魔法使いの絵が写っている。同じようにアスタルトの顔は、萌え系の可愛い女の子「アスタルトには似合わないよ」と笑い話になるが、彼の本当の姿は分からない。
会話からアスタルトは男で僕より年齢は上、そしてIT会社で働いている、そのことは知っていた。
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