2話 ラッドの実力

 目の前ででラッドくんが戦ってくれて、俺がその援護をする形で戦い始めた。俺の役目として敵を馬車に近づけないことが最優先である。もし馬車に入られたらルビアの安否が危なくなる。それだけは一番やってはいけないことだ。そうは考えていたが、思いのほかラッドくんが敵を殺していくのに驚いた。


(すごい...)


 敵をこちらに極力こさせないようにしているのは分かるがそれ以上に人を殺していた。


 人を殺す、それは自分との戦いである。何も考えずに殺すということもできるが、それをやってしまうと後々辛くなってくるのは明白だ。だからこそ精神面で安定していなければいけない。それをラッドくんはできているのだろう。だからここまで躊躇なく戦えている。俺よりも数段暗殺者として完成しているのが分かる。


 だけど人数が人数であるため、数人は俺に攻撃を仕掛けてくる。難なく俺も盗賊を殺していく。戦いながら自分の成長を感じた。


(前の俺だったら躊躇していたんだろうな)


 10分程度戦って盗賊たちをある程度倒し終わったところで、リーダーらしき人物とラッドくんの戦いが始まった。動きからして他の奴らとは違うのがわかる。俺やラッドくんの動きを目で追えているということは対処できるということだ。


 だから本格的に援護しようと思ったが、そう思った時には戦闘が終わっていた。


「は?...」


 本当に一瞬であった。ラッドくんとリーダーらしき人物が話している最中、ラッドくんが近づき短剣を投げた。リーダーらしき人物が短剣に意識がいった瞬間、もう一本の短剣でリーダーの首を斬った。


(そんな戦い方もあるのか...)


 暗殺者である以上、自分に敵意を向けられていたら戦い辛いのは明白だから、武器に意識させた瞬間を狙って殺す...。


 はっきり言ってリーダーらしき人物とラッドくんの実力は近いと思っていたから、拮抗する戦いになると考えていた。なのにここまであっさりと終わるとは思いもしなかった...。


 この戦いを見て実力だけがすべてじゃないってことが分かる。もし決闘とかだったらここまで簡単に終わるわけなかっただろう。だが命のやり取りになった途端、ラッドくんの方が一歩先を行っていた。


 平然とした顔でラッドくんが俺のもとに来て


「終わりました。どうでしたか?」


「え? あ、うん。すごかったよ」


 そう。すごいとしか言えなかった。この戦いに関しては勉強になるところが多かった。俺の戦い方はいつも魔術で攻撃して、俺以外に意識させて攻撃していた。それを魔術以外で行うってことがどれだけ難しい事か。


 戦っている最中、短剣を手放す勇気がない。もし俺に攻撃を仕掛けて来た時、もう一つの武器を出すことが遅れたら殺されるかもしれない。絶体絶命の時だったらできるかもしれない。でも普通の戦闘であったらここまで大胆に戦えない。


「良かったです。これでノアさんにも認めてもらえましたか?」


「いや、俺はもともと認めてたよ?」


 歳が近くてここまで強いのに認めてないわけがない。


「わかっています。ですがノアさんが命の危機になった時俺を信用していてもらえますか?」


「...」


 言われてみれば...。もしそのような場になった時、ラッドくんではなくトニーさんであったら? 安心感が違う。でもそれはしょうがないことだと思う。だってトニーさん含め、自分より強い人とラッドくんとでは安心感も違う。


「なので極力信用していただけるように努力します」


「うん。でも今の戦いでラッドくんが強いってことを再認識で来たよ。だから今後はより頼ると思う」


「はい。任せてください」


 この戦いの前まで、ラッドくんは俺より全体的に少し弱い人だと思っていた。でもその認識ではなくなった。命のやり取りであったらラッドくんの方が俺より強いだろうし心構えだったり、他にも俺より勝っている部分は大いにあると思う。


(本当に護衛役として来てもらえてよかった)


 スクリーティアに向かう前まで護衛役なんて俺だけで充分だと思っていたが、ラッドくんは違う。俺にはないところはあるし、補ってもらえる。本当に必要な人物なんだと実感できた。


 馬車に入る前にラッドくんに水玉ウォーターボールをかけて血濡れをとってから、火と風の複合魔法で乾かしてから中に入った。

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