9話 ストッパー


 オリバーの攻撃に対して、二人はいきなりのことで反応できていなかったため、俺が二人を護るように短剣で攻撃を受け流す。


「オリバー様?」


「...」


 マリアの問いにも返事せず、また攻撃を仕掛けてくる。二人は信じられないようで棒立ちしている。


「自分の身は自分で守れ!」


 俺が叫ぶと、二人とも我に返り攻撃をかわす。それでも二人は今の光景が信じられなさそうにしていた。俺だってそうだ。オリバーがこんなことするはずがない。そりゃあ俺に攻撃してくるのは百歩譲ってわかる。でもアレックスやマリアに攻撃してくる理由がない。もしルビアが俺に攻撃してきたら二人みたいに棒立ちしてしまうかもしれない。


「あ、ありがとう」


 アレックスがお礼を言ってくる。


「それよりもなんでオリバーがこうなっているかわかるか? なんか理由があるんじゃないのか?」


「わからない。なんで俺たちに攻撃してくるんだ?」


「わからないよ。オリバー様がこんなことしてくるとは思えないし...」


「あぁ。それは二人と一緒の意見だ。だからなんか理由があるはずだ」


 こう会話している時もオリバーは俺たちに攻撃してくる。うまく俺とアレックスが防いでいるが、このままだとどうすればいいかわからない。前に進めない状況だった。今のオリバーは何かが変だ。ここに来る前、マリアもオリバーが変だと言っていた。でも今オリバーにかまってる余裕はない。最優先はルビアだ。でも二人の状況からして俺だけルビアを探しに行くわけにも...。


「ノア。お前は先に行け。ここは俺たちが何とかする」


「は? でもお前たち、オリバーと戦えるのか?」


「無理に決まってるだろ。でもオリバーは仲間だ。ノアに俺たちの問題を巻き込むわけにもいかない」


「それは俺だって一緒だろ!」


 アレックスはこう言っているが、ルビアに関しては俺の問題だ。だったら俺も助けるのが道理だろ。でも二人は


「ノア! あんたはオリバー様とルビア様どっちを選ぶのよ! 私たちが手伝った時とあんたが手伝おうとしている状況が違うじゃない! ちゃんと状況を判断しなさい!」


「そうだぞ。お前は俺たちにかまってる余裕がないはずだ。自分のなすべきことだけ考えろ。俺たちのことはいい。お前が戻ってくるときには俺たちも解決していると思うからさ」


「あぁ。じゃあ頼んだぞ」


 二人を後にして屋敷の奥に進もうとした時、オリバーは俺にめがけてグランドクロスを放ってくる。


(!)


 二人に任せたと思って油断していた。その時、アレックスもオリバー同様にグランドクロスを撃って相殺してくれる。


「早くいけ!」


 俺は頷き奥に進む。まずはラウンドを使ってて敵意位置を把握する。隣の部屋に2人、その奥の部屋に3人。そして二階に10人ほど。


(数が多い...)


 わかる範囲でも15人。助けた後襲撃を受ける可能性があるため、まずは下の階にいる奴から倒して行く。


 隣の部屋に入る。すると二人が同時に毒矢を撃ってくる。矢をうまくかわして存在感を消す。


(暗殺者なら暗殺者なりの戦い方がある)


 普通の相手なら標的以外にも注意して戦う。でも今の状況では俺だけしか警戒しないはず。だったら俺に集中させればいいだけ。


 まずは存在感を消して位置を眩ます。その後殺気を放って位置を教える。そしたら二人が俺に向かって殺気を少し出してきた。


(よし)


 誰だって殺気を出されたら殺気を出してしまうもの。だったらそこを狙えばいい。どちらも位置がはっきりしたところで、真正面から火玉ファイヤーボールを放つ。すると二人はうまくかわす。でもそこで俺は残像を作って俺だけに集中させる。


(暗殺者ならこの状況ではあまり動いてこない)


 暗殺者なら確実に殺せる時に本気で攻撃をしてくる。だから今は姿を暗ませるのを優先してくるはず。


 案の定予想通り敵は姿を眩まそうとしてきた。そこを突いて攻撃していく。すると一人に暗殺者が


「第二王女はもう死んでいるぞ」


(!?)


 いや、気を惑わそうとして来ているだけだ。迷うな! 俺はそう信じ込んで敵に攻撃する。一人目をみねうちで気絶させるともう一人の暗殺者が


「ほら!」


 金色の髪を床に捨てた。


「あ、あぁ...」


 紛れもないルビアの髪だった。自分への不満と後悔が紛れていき、膝を突く。その時暗殺者が俺の首めがけて刺して来ようとした。


「もういいよ」


「は?」


 暗殺者の攻撃を避けて首を斬る。


(もういい。俺が迷っていたからだ...。俺がルビアとずっと一緒に居てればこうならなかった)


 だったらこいつらぐらいは...。自分にかけていたストッパーがなくなったのが分かる。


「人を殺しても何も思わないか...」


 前までなら人を殺したら苦しかった。でも今は何も感じない。次の部屋に行っても何も考えずに殺していく。


「ルビア。俺が間違っていたよ。俺がちゃんと暗殺者になれば。そう、人を殺すためらいなんてしていなければ」


 そう思わなかったら、トニーさんやアレックスと訓練しなくて済んだ。おれがもっと決断が早ければ...。そうだ。もうここからは人を殺せばいいんだ。


(ルビア、すぐそっちに行くよ)


 でもそれは今じゃない。こいつらを殺してからだ。そしたらルビアのところに行こう。血濡れをふきながら二階へ向かった。

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