8話 勇者視点4


 ミア様の報告によって俺たち勇者パーティは一旦解散させられた。支援も一応は俺だけもらえるようになった。本当なら今頃三人でもっと高みに挑戦していたところなのによ。


(それもあいつのせいだ)


 俺が直々にパーティに戻って来いって言ってんだぞ? それなのになんで戻ってこねーんだよ。途中でルビア様が来てパーティに戻らない決断をしたのだろうけど、俺は勇者だぞ? それにあいつは暗殺者。世間から見ても勇者と暗殺者のどっちを信用するかなんて明白だろ。それなのにあいつと関わった人全員があいつの味方をする。そんなあいつの良いところでも見つけたか? 


(何なんだよ)


 そう思っていると、おばあさんにもらった指輪から魔力がみなぎってくるのが分かる。


(??)


 なんだ? 知らない感覚だ。体に自分以外の魔力が入ってくる感じだ。でもなんか気持ちいい。力がみなぎってくる。


 あいつと決闘したときは油断したけど今なら勝てる。そんな感じがした。でも俺一人じゃ高難易度のクエストを受けるわけにもいかない。


 そこから数日間、ノアのことを考えていると徐々に魔力が増えていくような感がした。すると女性の声が聞こえた。


{ノアがうざい?}


「は?」


 すぐさま周りを見渡すが、誰もいない。


(気のせいか?)


 また声が聞こえた。でもなぜか心地よい声だった。


{お前からすべてを奪ったノアが憎い?}


 そうだ。あいつがうざい。憎い。あいつさえいなければ今頃楽しい人生を歩んでいたはずだ。あいつさえいなければ。


{ノアを殺したいよね?}


 ああ。殺したい。俺から奪ったように、あいつから何もかも奪いたい。なんであいつだけ楽しそうにしているんだよ。そんなの許さない。


{殺っちゃおうよ}


 殺したい。でもどうすればいいんだよ。あいつを殺すと結果俺が悪者扱いされる。そうなれば勇者が暗殺者より悪い印象にならざるを得ない。


{大丈夫。王女様を攫えばいい}


 は? そんなことしたら俺が悪いだけだろ。それにルビア様を巻き込むわけにはいかない。


{王女様は攫うだけ。ノアに攫ったのを擦り付ければいい。あいつは暗殺者なんだから}


 そうか。俺は悪くない。あいつにすべてを擦り付ければいいだけ。


{そうよ。あなたは悪くない。悪いのはあなたからすべてを奪ったノア}


 徐々に俺へ話しかけてくる言葉に耳を傾けてしまう。だけどそれが悪いと思えない。俺は悪くない。あいつがすべて悪い。


「そうだ。あいつが悪い」


 とうとう言葉に出してしまう。すると


{そう。すべてノアが悪い。じゃあ今から言うことをやってみて?}


「わかった」


 言われるがまま王宮に入ると、王宮内には誰もいなかった。


(本当にいないんだな)


 そこから俺は光魔法と水魔法の複合魔法---幻影ミラージュを使い姿を消してルビア様がいる部屋に入る。すると怯えているような顔でルビア様が問いかけてくる。


「え? 誰かいるの?」


{あなたのことは見えていないから気にしなくて大丈夫。それにあなたが悪いわけじゃないわ。こうなったのもすべてノアがいたからよ?}


(そうだ)


 ルビア様に催眠魔法をかけて眠らせる時、ルビア様が少し暴れて部屋にある家具が壊れてしまう。


{これも想定内よ。王女様にも幻影ミラージュをかけて王宮を出ましょう}


(それだとバレるんじゃないか?)


{大丈夫よ。ちゃんと策はあるわ}


 なら大丈夫か...。そして王宮を出た時、頭に激痛が走る。そこから徐々に自分で判断できなくなっていった。そして時間が少し経過したところでノアたちが俺のところに来た。


{殺したい}


 あぁ。殺したい。でもなんでアレックスやマリアもいるんだ?


{ノアに騙されているのよ}


 そうか。二人も助けなくちゃ。そうだ、俺は勇者。困っている人を助けるのは当たり前のこと。でもなんで二人ともそんな顔をしているんだ? 二人ともこっちにこい。今からノアを殺すぞ。ルビア様は無事だから安心しろ。


(あれ? 二人に伝えたいのに声が出ない)


{ふふ。ここまでね}


 何か聞こえた気がする。でもそう思った時、意識がなくなった。

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