5話 攫い


 アレックスは左右の動きを絡めながら攻撃を仕掛けてくる。トニーさんに言われたのを意識して、全体的に視野を広げてアレックスの攻撃を対処する。


「!?」


 避けられると思っていなかったのだろう。戸惑っている一瞬を見逃さず縮地法で前に詰めて正面から攻撃する。なぜかその攻撃をアレックスは受けてしまう。


(?)


 今までの敵なら避けられていた。なのになんで? そう思いつつ連続攻撃を仕掛ける。アレックスはあたふたしながらもギリギリで避けてくる。


 本当ならここで一回様子を見るが、今回トニーさんに実力の差を見せつけてほしいと言われているため、アレックスに余裕ができる前に攻撃をまた仕掛ける。


 今までなら左右のみのフェイントを入れつつ攻撃していたが、今回は上下左右のフェイントに加え、足音を消してどこから攻撃来るのかわからなくさせた。


 案の定アレックスはフェイントに惑わされて手と足に攻撃を受ける。アレックスが怯んでいるため少し試してみる。


 ラッドくんにアドバイスをもらったように体重移動を組み合わせながら残像が見えるように動くと今までと感触が違うのが分かる。今までなら足音を消して残像を見せるだけだったため、残像だとバレてしまう時があった。でも今回体重移動を組み合わせたことにより残像がより本体に見えるようになったと思う。


 するとアレックスはあたふたして俺がどこにいるか分からないようだった。それを見逃さず背後に回って短剣を首元に突きつける。


「!?」

 

 勝ちが確信して少し油断した瞬間、アレックスは俺を蹴り飛ばしながら叫びだす。


「俺はこんなもんじゃねー」


 魔法禁止だったのに光魔法---グランドクロスを撃ってきた。近距離で撃たれたため、攻撃は避けることができたが衝撃波のせいで腕に少しダメージを受けてしまう。


 グランドクロスで起きた砂煙を見逃さずアレックスの間合いに入り、脛を切り裂く。


「ッ!」


 アレックスが床に倒れこむ。


「勝負あったな」


「はい」


「...」


 トニーさんの合図で模擬戦が終わった。


「どうだ? ルールを破ってまで魔法を使い、それでもノアくんに負けた。もう認めてもいいんじゃないか?」


「そ、それは...」


 歯を食いしばっているのが分かる。


「アレックスが知っているノアくんはいないんだ」


「はい...」


 戦意を喪失したのか、俺を睨むことすらしてこなかった。そして


「ノア、悪かった。お前が強いってことはわかった。でもなれ合いはしない」


「わかってる」


 そう言ってもらえて助かった。俺ももうこいつらとなれ合うつもりはない。そこからトニーさんが俺が戦闘でどんな戦い方をしていたのかをアレックスに解説して


「では明日からノアくんと一緒に訓練しようか」


「「え?」」


 お互いハモってしまった。アレックスも俺と一緒の考えをしていたのか


「さっき言いませんでしたか? 俺はノアとなれ合いはしないって」


「言っていたな。でもそれは私のことを考えていないだろ? 私は一人しかいない。一緒の場所じゃないのにノアくんとアレックスの二人同時に教えることは無理だ。だから一緒にやろうと思ってな」


「...」


「わかりました」


 俺が了承するとアレックスは


「いいのかよ」


「しょうがないだろ。今断ればお互い実力は上がらない。だったら今回だけはしょうがないんじゃないか?」


 そう。俺もルビアのためにレベルアップしたいし、アレックスだって今後オリバーたちと冒険する時のためにレベルアップしたいはず。だったらしょうがないだろ。


 アレックスは少し嫌そうな顔をしながら了承する。


「じゃあ明日からやろうか」


「「はい」」


 こうして3人での練習が始まった。俺はいつも通りトニーさんに精神面のことを教わり、アレックスは基礎的なことを教わっていた。そこから何度か模擬戦を行う。一応俺が勝てているが、剣を振る粗さ、無意味な行動をしない。基礎的なことが向上していることがわかる。


 そして数日たつと俺とアレックスは昔みたいに話せるようになっていた。


「なあ。なんでお前はそんなに強いんだ?」


「子供のころから死に物狂いで訓練させられたからな」


「あぁ...」


「じゃあちょっと俺に指導してくれよ」


 アレックスがそう言ったのに驚いた。今までなら罵倒などをされていたし、絶対に教えを乞うようなことは言わなかった。


(こいつも変わろうとしているんだな)


 そう思った瞬間、ラウンドが反応した。


(え?)


 ちゃんと機能していたはずなのに、ラウンドからルビアが消えた。


「悪い。ちょっと席を外す」


 何かルビアにあったかもしれない。そう思うと動かずにはいられなかった。


「は? なんでだよ」


「緊急事態だ...」


 この時間帯はオフであるが、これは俺の仕事。アレックスに頼るわけにはいかないし、模擬戦が終わった時、お互いなれ合いはしないって約束をした。


 俺はすぐさまルビアがいた部屋に戻ると、部屋は荒らされ、ルビアが居なくなっていた。


「...」


 その瞬間、宰相---ドーイさんが少しにやけながらこちらに来て


「これはどういうことだ! ルビア様はどこにいる? もしかしてお前が!」


(こいつなんで笑ってやがる。でも今はルビアが最優先だ...)


「違う!」


 でもここを無断で出ていくと王宮内で俺が犯人にされる可能性があるため、否定する。


「それはお前が決める事じゃない。潔白を証明したいなら独房に入ってもらう」


 そんな時間あるはずないだろ! 今すぐにでも探しに行かなくちゃいけないのに...。もうおれが犯人でもいい。だから俺は窓から出ていく。


(頼む。無事でいてくれ...)


「ちょっと待て!」


 その言葉を無視してルビアを探しに行った。

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