3話 未熟

 相手を人として見ない。なんでそう思わなくちゃいけないんだ? そう思うことによって何が変わるんだ? 確か俺の心が保たれるとか言ってたよな? 俺が疑問そうにしているとトニーさんが


「わからないようだね」


「はい。すみません」


「それはね。人を殺すと思うから心が壊れるからだよ」


「...」


 そりゃあそうだろ。だって殺しているのは人なんだから。


「でもね。考えを変えてみたらどうだい? 人を人として見ないで殺したら特に何とも思わないだろ? ノアくんが魔物を殺した時どう思う? なんとも思わないだろ? それと一緒のようにすればいいんだよ」


「そんなことできるのですか?」


「まあ難しいけどできなくはないかな。一番手っ取り早いのは人って認識を捨てること。相手はすべて魔物だと思えばいい。だけどそう思うことができる人は限られる。だから心を無にして戦うのが普通だね」


「心を無にですか...」


 そんなことどうやるんだ? 戦っている時、絶対に何かしら考えて戦うだろ。そんな状況下で心を無にするなんて...。


「そう。まずは先入観を捨てよう。人ではない、人の形をしている魔物だと思えば戦いやすいと思う。それか人に変幻している魔物だと思えばいいんじゃないか?」


「...」


 そう言われてもな...。


「できなかったら、人と思うのは捨てずに殺す相手を自分が憎んでいる相手に思い浮かべればいい。そしたら心が少しは楽になる。それができるようになったらさっき言ったように相手を魔物だと思えばいい」


「はい...」


 難しいけどやれることはやりたい。


「心構えはこれぐらいにして、明日から毎日私のところに来て剣の練習をしようか。心構えは一朝一夕では身につかないから頑張るしかないからね」


「明日から宜しくお願いします」


「うん。じゃあまた明日ね」


「はい」


 トニーさんと別れて、実家に戻った。


 実家ではスミスさんがラッドくんに稽古をつけていた。ラッドくんをこの前見たより一段と強くなっているのが分かる。


「坊ちゃまおかえりなさい」


「ただいま。今日ラッドくんを借りてもいい?」


「はい」


 スミスさんとの練習をやめてもらい、俺はラッドくんに


「今から手合わせをしない?」


「え? いいのですか?」


「あぁ。ラッドくんと手合わせをしたいと思ってね」


 今のラッドくんから学べることがあると思った。


「お願いします」


「でも魔法は禁止。剣だけの戦いね」


「はい」


 条件を付けて戦う態勢をとる。俺はすぐさま間合いを詰めて攻撃をする。ラッドくんはその攻撃を避けて反撃してくる。ここまでは今までと変わらない。だから俺は左右にフェイントを入れつつ攻撃を仕掛ける。それでもラッドくんは攻撃をかわしてきた。


(!?)


 さっき戦った騎士ですらかわせなかったから、かわされるとは思ってもいなかった。俺はフェイントの数を増やして攻撃をする。それでもラッドくんはすべてを避ける。


(なんでだ?)


 するとラッドくんは縮地法を使って間合いに入ってきて腹部に向かって攻撃してくる。無駄がない綺麗な攻撃で見とれてしまった。


 普通なら体重移動のせいで攻撃する際に少し狙っている場所からずれたり、剣の速度が落ちたりする。それなのにラッドくんはそれがなかった。俺はバックステップをして後ろに下がる。


(すごいな)


 でもこれで何が必要なのかわかった気がする。俺は少しフェイントに変化を入れて攻撃をする。さっきまでならフェイントに殺気をあまり入れていなかった。でも今回はフェイントにも攻撃する際と変わらないほどの殺気を入れる。

 

 するとラッドくんは先程みたいにすべてを処理することはできず少しよれる。そこを見逃さず前に詰めて複数のフェイントを入れて攻撃をする。


「まいりました」


「ありがと。それで少し質問してもいいかな?」


「はい」


「なんでフェイントってわかったの?」


「それは殺気がなかったのと...」


「なかったのと?」


 判断していたのは殺気だけではないのか。


「攻撃する姿勢です」


「姿勢?」


「はい。誰でも剣を振り下ろす際、後ろから前に体重移動をして攻撃してきます。ですがノア様のフェイントには体重移動があまりありませんでした」


「あ~」


 そう言うことか。フェイントを入れる時、本当に攻撃するわけではないから剣を振り下ろすのを中途半端に止めていた。それだと体重移動も中途半端になってしまうってことか。そこで少し閃く。


(体重移動って他にも応用が効くよな。歩法とか...)


 体重移動がここまで大切だとわからせてもらえて本当に助かった。


「ありがと。ためになったよ。それでだけどシュリさんはどこに行ったの?」


 俺はスミスさんに尋ねる。


「シュリは今、暗殺の型を身に付けるため、他の場所で修行しています」


「そう言うことね」


「はい」


「じゃあ今日はありがと。またね」


 俺はそう言って家に帰り、就寝した。そこから毎日のようにトニーさんのところに行って剣の稽古、心構えを教わった。


 そして数日が経ったある日、会いたくない人物と会ってしまう。


「ノアがなんでここにいるんだ?」


「それはこっちのセリフだよ。なんでアレックスがここにいるんだよ」


 トニーさんと稽古しているところに勇者パーティの一人、アレックスが現れた。

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