2話 気持ちの持ち方
「ノアさん。準備できているのでいつでも大丈夫です」
「俺も大丈夫です」
「でははじめ!」
トニーさんの合図と同時に模擬戦が始まる。今回の模擬戦では魔法が使えない。それに加え、剣の技術が見たいと言っていたので歩法なども使えない。俺は徐々に対戦相手との間合いを詰めて攻撃を仕掛ける。まず最初は正面から首元を狙う。それを騎士の方はかわしつつカウンターを撃ってくる。
トニーさんやオリバーに比べたら攻撃する速度が遅いため、すんなり避けることができた。そこから何度かこのような攻防を続ける。ここでトニーさんと戦った時を思い出す。
(もしかしたら)
思いついたことを実践してみる。まずは先ほどと同じように正面から攻撃をする。予想通り攻撃をかわされてカウンターを受けるが、その攻撃を俺も避けてもう一度攻撃をする。その時、前戦った時トニーさんがやっていたフェイントを見よう見まねでやる。
フェイントを行う、それは剣の技術がそれなりにいると思う。技術が必要と言っても剣の技術である。俺が使っているのは短剣。短剣とは普通の剣よりリーチが短く、小回りが利く。だったらフェイントを入れることも普通の剣より簡単だと思った。
案の定1つのフェイントを入れることは簡単であった。フェイントに騙された騎士をすんなりと倒すことができた。
「まいりました」
「ありがとうございました」
(よし)
フェイントを入れることができるようになれば今後戦略の幅が広がる。そう思った。
「ノアくんってフェイントを入れることができたのか」
「トニーさんと戦ったことを思い出してやってみました」
「...。じゃあ話は変わる。少し話そうか」
「はい」
騎士の皆さんにお辞儀をして、場所を移動する。
(本当に皆さんには申し訳ない事をしているな)
「なあノアくん。君は戦う時、どのようなことを意識している?」
意識していることか...。
「いかに自分が負傷せず敵を倒すことだと思います」
「そうだ。複数人と戦っている時、一人目で負傷してしまうと今後不利になってしまう。それは一対一で戦っている時も同様だな。もし別の敵がいたら? そう考えるだろう」
「はい」
「他には何を考えている?」
「...」
他に。そう言われて父さんに言われたことを口にだす。
「敵の急所を狙うこと。敵をスムーズに殺すこと」
「そうだな。それも大切だ。でも」
「でも?」
「仲間がいた場合、どうやって連携をとるか。それを考えてほしい」
言われてみれば。でもそれは無意識にできていると思う。エーディリ王国で刺客と戦った時、リックさんとうまく連携ができたと思う。
「はい」
「次に戦う時の心構えだけど、敵のことは意識しないこと」
「え?」
敵のことを意識しない? でも意識しなくちゃ戦えないじゃん。
「これは戦っている最中、そして精神面でも言えてる」
「...」
「戦っている最中、一人の敵を意識していると他の敵がどのような攻撃をしてくるかわからなくなる時がある。だから一人の敵に意識を割くのではなく、全体的に見ることを意識すること。そうすることによって刺客が来た時でも素早く対処することができる」
「あぁ~」
言われてみればそう言う場面が多々あった気がする。
「そして精神面での話だが、これはノアくんにとっては一番大切なことだと思う」
「俺に一番大切なこと?」
「そう。君は暗殺者として未熟だと俺は思う。君は優しすぎるからだ。だから敵を殺してしまった時、もっと他の方法で倒すことができたんじゃないかって考えていると思う」
「...」
「でもそれではだめだ。もし自分より強い敵、守る人が居る時にそのようなことを考えてしまったらすぐ命を落とすだろう。だから敵のことは意識せず、自分のことだけを意識してほしい」
「は、はい」
「今後ノアくんは人を殺す時が増えるだろう。そして毎回毎回自分を責めることをしてほしくない。そんなことをしたら君は君じゃなくなってしまう」
「ではどうすればいいのですか?」
するとトニーさんは低い声で俺にアドバイスをくれた。
「相手を人として見ないことだ」
「...」
俺はなんて言えばいいかわからなかった。
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