18話 今更言われてももう遅い


「ノア。勇者パーティに戻って来い」


「は?」


 オリバーに突然言われて、唖然とした。


「だから戻ってきてほしいって言ってる」


 オリバーが俺に言ってくる。アレックスやマリアも今までの軽蔑するような顔ではなく、優しそうな顔で俺を見てくる。


「...」


「ダメなのか?」


 必要とされている。そう思うと少し嬉しさを感じた。でもそれと同時にルビアの顔と追放されたときの悲しい感情を思い出す。


「今更言われても遅いよ。俺はもうルビア様の護衛として働いているのだから。それに俺は暗殺者だからお前たちのパーティにいたら不利益になるんじゃないのか?」


 追放された仕打ちをわすれたわけじゃない。俺はこいつらを好きになることはもうない。俺がそう思っている時、マリアが


「お時間が空いている時に入ってくれればいいので護衛は続けていて大丈夫です。それに暗殺者という認識を私たちが間違えていました」


 時間が空いている時か。昔なら嬉しかっただろうな。でも今更そう言われてももう遅い。俺はルビアのものであり、こいつらと働くつもりはない。


「悪いけど戻るつもりはない」


 それに俺が決められることじゃない。するとちょうどいいところでルビアが俺のもとにやってくる。


「ねえ。どういう状況?」


「これはルビア様。今ノアをパーティに勧誘しているところです。ルビア様の護衛をしているのはわかっています。ですのでノアの時間に余裕があるときだけでもと思いまして」


 オリバーはルビアに説明をする。


「それはノアをまた苦しめるってことですか? また金銭面で支援がなくなったからノアを必要としているのですか?」


 その言葉に全員がビクッとする。


(あぁ。そう言うことか)


 こいつらの態度を見て、少しだけでも嬉しいと思ったのを後悔する。こいつらは俺を俺として見ていない。


「それは違います。本当にノアのことを必要としているのです!」


「そうですか。でもノアはもう私の護衛であるため暇な時間なんてありません。諦めてください。ですがノアがどうしてもって言うのでしたら...」


「ノア! 頼む」


 そう言ってルビアとオリバーたちが俺を見てくる。


(あぁ...)


 俺を信用してくれている人。その人がここまで言ってくれているんだ。それに応えるのが筋だろ...。それにもうだまされない。オリバーたちの顔を見ればわかる。ルビアが俺に向ける目とは違う。俺を必要としていない、ただただ駒として見ている目。だから


「悪いけど戻るつもりはない」


「なんでだよ。それに断っていいのか? 勇者パーティだぞ? そんなことして世間からどう思われるかわかっているのか!」


「そんなの関係ない。俺はルビアについていくと決めた。世間がどう言おうが知ったことじゃない。もう勇者パーティに戻るつもりはない」


「は! どうなっても知らねーからな」


 オリバーが俺を睨みながら言い、去って行った。


「よかった」

 

「どうかしたか?」


 ついいつもの癖でため口が出てしまう。


「ノアが戻っちゃうかと思った。でも私が止めるのは違うし...」


「違わない。俺はルビアの護衛なんだぞ? それに今ので俺が誰に必要とされているかわかった。もう勇者パーティに戻るつもりはない。心配させてごめんな」


 するとルビアはホッとした表情で


「じゃあ戻ろっか」


「はい」


 もうあいつらのもとに戻るつもりはない。追放されたときも今も、俺が欲しい言葉を言ってくれたのはルビアだ。だったらそれに応えたい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る