16話 カウンセリング


 襲撃を受けた日から全員の安全確認、情報収集などで1週間ほどエーディリ王国に滞在することになり、毎日王宮でオーラ様とクララ様、ミア様と顔を合わせることになった。勇者パーティは護衛の任を外されたため、この場にはいない。


 最終日、ミア様から聞かれる。


「ノア様って暗殺者なの?」


 あの場にいた時点で気づかれているとは思っていた。


「はい」


 全員が納得したような顔でこちらを見てくる。


「私はあなたを軽蔑しない。あなたのおかげで私たちは生きているのだから」


「ありがとうございます」


 するとルビアが全員に言う。


「ノアは私の国で代々仕える暗殺一家の長男なの。だから私の護衛をしてもらっている」


(!?)


 ルビアが本当のことを言ったので驚いた。その事実を知ってみんなどう思うか...。そう心配していたが、俺の予想とは違う回答が返ってくる。

 

「だから執事なのにあんな強かったのね。納得だわ」


「うんうん」


 この人たちは暗殺者を軽蔑しないのか? 暗殺者に命を狙われたのに? するとオーラ様が一つ提案をしてきた。


「私たちはノア様に助けられて感謝もしているし信用もしはじめているわ。でも世間では暗殺者のイメージが良くないのよね。だからノア様が暗殺者であることをここにいる人以外に他言無用にするってことはどうかしら?」


 その言葉に全員が頷く。なんでそこまで...。そう思いつい言葉が出てしまう。


「ありがとうございます。ですがなんでそこまでしてくれるのですか?」


「それはルビア様との交友関係を切りたくないからよ。それとノアくん。あなたを暗殺者としてではなく、護衛として認めたからよ」


 護衛としての俺。ルビアと他数名以外は暗殺者としてしか俺を見てもらえなかった。だからこそこんな風に言ってもらえたのが嬉しかった。


「他言無用ってことは納得したわ。でも一つ質問してもいい? あの時私の前に突然現れたけどどういう魔法なの?」


 もう影魔法を隠し通せると思っていなかったので本当のことを言う。

 

「俺の家に代々続く無属性ユニーク魔法です」


無属性ユニーク魔法ですか...」


「はい」


 ミア様は顔を少し顰めながら


「話には聞いたことがあります。死体の影を取り出して召喚できるとか...」


「はい」


 一番知られたくない人に知られてしまった。妖精族エルフはネクロマンサーなどが死体などを活用するのを嫌う。それは妖精族エルフにとってタブーに近いことだから。


「実在したのですね。ですがノア様のことは他言無用と言う約束をしたので誰にも言いませんよ。ですが今後妖精族エルフの前であのような魔法を使うことはオススメしません。それが彼らを助ける時でさえでもです」


「ご忠告ありがとうございます」


 その後はなぜ暗殺者が近づいていたことに気付かなかったのか。今後はどのような対処をしたらいいのかなどを話して解散した。


 俺だけ今日もカウンセリングを受けに病室に向かう。


(まだ大丈夫...)


 そう思いながら病室に入ると、中には2人医師がいた。


「お待ちしておりました。ノア・アリアブル様」


「はい。今日もよろしくお願いします」


「ではいつも通りベットに寝て目を閉じてください」


「はい」


 目を閉じると医師から質問をされる。


「どんな気分ですか」


「久々で緊張すると言いますか、怖いと言いますか...」


 そう。またあの頃の俺に戻ってしまうかもしれないという恐怖心があった。


「怖いですか...。ではあなたが殺した時、他の人たちはどのような目で見ていましたか? 軽蔑、拒絶するような目で見ていましたか?」


 そんなことないと思う。でもどんな目で見られていたかわからない。


「そ、それは...」


「話さなくて大丈夫です。その後、皆さんはあなたにどのような対応をしましたか?」


(感謝されていた)


 その後もいくつか質問をされた後、目を開けてもよい合図をもらったので目を開ける。


「私は人を殺したことがありません。ですが人を助けるために人を殺す。それはすごく勇気がいります。人を殺す事が全くの悪い事とは限らない。それだけは覚えていてください」


「はい」


「では今日でラストになりますが、もし不安になりましたら、いつでもこちらに来ていただけたら相談に乗りますよ。人を殺したら誰しもが通る道ですから」


「ありがとうございました」


 俺は病室を後にした。


(人を殺すのが悪い事とは限らないか...)


 少しその言葉で気持ちが楽になった。暗殺者である俺がこんな感情になるのはいけないとわかっている。


{心を捨てろ}


 よく父さんに言われた言葉だ。


「は~」


 俺って弱いな。そう思いながら宿に戻ろうとしたら、勇者パーティが目の前に現れた。


「ノア。勇者パーティに戻ってこい」

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