15話 暗殺者との戦い


 暗殺者たちは全方位からダガーを投げてくる。その攻撃にすぐ行動できたのは俺とリックさんだけだった。俺は地面から影を壁にするように出してルビアとミア様を守る。オーラ様とクララ様は守れる範囲外だったが、そこはうまくリックさんが対処してくれてよかった。


 暗殺者たちは顔色変えずに三人が一斉に攻撃を仕掛けてきて、残り二人が存在感を消して位置を眩ませる。俺とリックさんで三人の攻撃を対処するが残り二人の攻撃がどこから来るかわからない以上、深追いすることができない。本来ならラウンドを使って敵の位置を把握して戦うのが常套手段なのだが、先程の戦いで腕をけがしたため、目の前の敵を相手にすることでやっとだった。


「リックさん! 右後ろ!」


「助かる」


 リックさんの死角である場所から攻撃してくるのをいち早く教えて対処してもらう。でもこのままじゃじり貧だった。この攻防を1分近く続けたところでやっとオリバーたち、勇者パーティがこちらにやってきて応戦してくれる。


 でもこの戦いに関してはこちらの分が悪かった。今の戦闘を見る限り、援護するそぶりがないエリンさんは戦うことができなそうだ。戦力になるのは俺とリックさん、そして勇者パーティのみだった。それに加えて妖精族エルフの護衛の方々は勇者パーティを雇ったことで武器を王宮において来てしまっていた。


 暗殺者との戦い方を知っているのは戦い方からして俺とリックさんしかいない。それに加えて聖騎士のアレックスと勇者のオリバーは剣が大きいため小回りが利かない。それに加えて勇者覇気を使ってもカバーに入られてしまう。そしたら俺とリックさんで戦うしかなかった。


 お互い護衛対象を守れる範囲で戦うが防戦一方であった。守りながら戦うのがこんなに難しい事だった事を初めて知る。いつもなら俺も暗殺者のスキルを多用して戦うのだが、それをしてしまうとリックさんとの連携が取れなくなる。それに加えて俺の存在感などを消すとルビアたちに不安感を与えてしまう。


「クソ!」


 ただただ攻撃を受け流すことしかできず、反撃の一手が出てこなかった。そんな時オリバーが


「うぜぇ」


 そう言ってグランドクロスを放つ。


(バカが...)


 さっき戦った時と一緒の行動をしてどうする。オリバーがグランドクロスを放ち終わった時、姿を暗ませていた2人がルビアめがけて毒矢で攻撃を仕掛けて来た。


(これなら)


 その攻撃をうまく処理して、毒矢がきた方向に雷矢ライトニング・スピアを放つ。すると一人はかわすが一人の暗殺者には命中して殺してしまう。


(...)


 胸が痛くなる。こんな感情もう味わいたくなかった。


 4人になったこともあり、オリバーとアレックスが暗殺者2人と1対1をしてくれているおかげで少しこちら側が楽になる。


 時間が過ぎていくごとにオリバーたちが優勢になっていき、1人また1人と倒していく。残り2人になったところで標的が変わったことに気付く。


(やばい)


 俺はとっさに叫ぶ。


「リックさん! ルビアを頼みます」


「わ、分かった」


 リックさんは徐々にオーラ様とクララ様と動き、ルビアの近くに向かう。さっきまでミア様は俺の近くにいたが、今はオリバーたちの近くにいる。そしてオリバーたちは暗殺者2人と戦って消耗している。だとしたらミア様が狙われるのは当然のことだった。弱いものから狙う。暗殺者の鉄則であった。


 最後の魔力を使い、影移動でミア様の背後に瞬間移動する。でも間に合いそうになかった。一人の暗殺者はダガーでミア様の首元へ、もう一人の暗殺者は目に見えない広範囲魔法、闇弾ダーク・バレットを仕掛けて来る。


 ダガーの方は短剣で捌くが闇弾ダーク・バレットをさばききることができないと思い


「ッ!」


 全身でミア様を守る。闇弾ダーク・バレットが終わった瞬間オリバーたちは攻撃されていたことに気付いて、暗殺者たちを殺す。


 俺はその場で倒れこむ。俺の事お構いなくオリバーは


「ミア様大丈夫ですか?」


「は、はい。それよりも...」


 ここですぐさま聖女---マリアが俺に超回復フル・リカバリーを使い怪我が治っていく。


「あ、ありがとう」


「あんたのためじゃない。やることをやっただけだから」


 痛みがなくなったところでルビアが泣きながらこちらにやってきて


「ノア大丈夫! 死んでないよね...」


「あぁ。大丈夫」


 軽く返事をして座りこむ。全員が周りに集まりオーラ様が言う。


「まずは助けていただきありがとうございます」


「護衛としてやったまでですので」


 俺やリックさんが答える前にオリバーが答える。


「今回の件、エーディリ王国で起きてしまった不祥事。本当に申し訳ございません。ミア様がこちらに来る件も含めて私の不手際です」


「オーラが悪いわけじゃないよ!」


「うん。それに幸い全員生きているのだからいいじゃない」


 ルビアやクララ様が言うようにオーラ様が悪いわけじゃない。ちゃんと闘技場の外には警備の人が居たし、今回はしょうがなかったとしか言いようがない。


「それでも今回、ノア様やリック、そして勇者様が居なければ私たちは死んでいたかもしれません」


「うん...」


 するとミア様が


「ノア様やリック様が私たちを護衛してくれたのはわかるわ。でも護衛として雇った勇者様はどうなのかしら? 結果として守ってくれたわ。でもノア様やリック様が居なければ私たちは死んでいたかもしれない。あまつさえ私たちを命の危険にまでさらしたのよ?」


 言われてみれば...。オリバーがグランドクロスを撃たなければルビアたちは危険な目に合うことはなかった。


「それは...」


「助けていただいたのは感謝しています。ですがあれは護衛ではなく戦闘です。私たちのことを考えて戦ってくれましたか?」


 その言葉に勇者パーティ全員が黙り込む。


「...」


「今回の件、私は父上、そしてルビア様の国にも報告させていただきます」


 するとオリバーが崩れ落ちながら俺に向かって何かを言ってきていた。だけどそれを聞き取ることができなかった。


「相手が暗殺者じゃなければ...。そうだ。ノアが暗殺者だからこうなったんだ...。暗殺者全員が悪い。そうに決まってる」

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