第12話 護衛の確約


 周りを見ることができない。なんせ実力で勝ったわけじゃないから...。予定通りなら落雷ライトニングで倒しきるはずだった。でも倒しきれなかった。落雷ライトニングを撃ち終わった時、勝ったと思い油断していた。でも実際は足のみ...。それも歳をとって反射能力が落ちていたから。それに落雷ライトニングを撃ち終えてトニーさんが敗北と言わずに詰めてくれば負けていたかもしれない。片足が負傷しているからと言って詰められないわけじゃない。


(クソ)


 俯きながら会場を去ろうとした時、トニーさんが俺の腕を上にあげた。


「観客にサービスせんかい」


「あ、はい...」


 腕を上げた瞬間観客が大声を上げる。


(素直に喜べない...)


「ノアくんはそんなに何を考えているんだ?」


「それは...。最後放った魔法が...」


落雷ライトニングのことか。いい魔法じゃったぞ。あんなにスムーズに連続で魔法を使うことができる奴などそう居ない。自信を持ちなさい」


「でもトニーさんは避けられたじゃないですか...」


 そう。完璧なタイミングだと思った魔法を避けられた。自信を持てと言われて「はい」と言えるはずない。


「あれは運が良かっただけじゃよ」


「それはご年齢が」


「歳も含めて私の実力じゃ。それに歳をとった相手と戦うのも練習の一環じゃよ。シャキッとせんかい! 周りを見てみなさい。ノアくんの事をみんな認めてくれたじゃないか。これじゃ満足いかないのか?」


 トニーさんに背中を叩かれて周りを見渡す。観客が俺とトニーさんのことを見ながら拍手していた。


「ノアくんは私に勝つことが目的だったのか? 違うじゃろ? みんなに認めてもらうためにこの試合があったんじゃないか? ノアくんは若い。今後もっと強くなるだろう。だったらこの試合を糧にしてもっと強くなればいいじゃないか」


 そうだ。俺の目的は国民のみんなに認めてもらうこと。ごちゃごちゃと何を考えていたんだ。トニーさんに言われた通り今後強くなればいいじゃんか。今回の試合を活かしてルビアを守れるようになればいい。


「はい。ありがとうございます」


 観客に声援を受けながら模擬戦会場を後にした。会場内の休憩所で一息ついているとルビアが走って来て抱き着いてきた。


「おめでとー。信じてたよ!」


「あぁ。応援ありがとな」


「うん!」


 ルビアに抱き着かれている状況で国王と王妃、父さんが遅れてやってきた。


「まだルビアはやらんぞ」


「え?」


「まあ冗談はここまでにしておいて、おめでとう」

 

 冗談だよな...。もし本心で言ってくれていたとしても身分が違う以上、俺とルビアが結婚できるわけない。


「ノアくんおめでと。これでルビアの護衛ができるわね」


「国王様、王妃様ありがとうございます」


「これでルビアを護衛することについて国民に伝えることが出来る」


「ありがとうございます」


 よし。これでルビアに仕えることができる。


「じゃあ今から言いに行こうか」


「え? 今からですか?」


 なぜ今なんだ? 明日でもいいのに...。


「そうだ。観客や放映で見ている国民は今、ノアくんを認めている。絶好の機会じゃないか!」


「そうね!」


「うん!」


 言われてみればそうか。明日、明後日と徐々に伝えるのが遅くなるにつれて俺への信頼度は薄れていく。


(でも今からか...)


「じゃあ行こっか!」


「あぁ」


 ルビアに手を引かれてもう一度模擬戦会場に向かった。 

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