第11話 試験終了


 こんな小手先の技で翻弄できるとは思っていない。でも一歩前に進むことはできた。


(この感覚...)


 久々だった。毎日俺より弱い相手と戦っていて考えることをやめていた。本気を出してしまえば人を殺す、もしくは大怪我を負わせてしまう。だから今まで力を無意識にセーブしていたのかもしれない。でも今は違う。目の前にいる人は12騎士の一人であり、格上の相手。だったら存分に本気を出していい。


(位置はわかっていると思うがトニーさんから攻撃することはできない)


 初めて見せる魔法や技を使っているため、トニーさんが攻撃してくることはないだろう。だったら方法はある。様子見している状態だと警戒心が強い。そこを突けばいい。


 母さんから教わった初級魔法をトニーさんの足元に連続で放つ。案の定避けられてしまうが俺への意識が少し減った。そこで次は水と風の複合魔法---氷石アイス・ロックを放つ。


「!」


 当然驚くだろう。氷魔法を使える人なんてそうめったにいない。その一瞬を見逃さなかった。幻影を見せつつ縮地を使いトニーさんの間合いに入り攻撃する。だが受け流されてしまう。


(予定通り)


 攻撃以外で剣を使わせた。その時、黒風コクイを使って、あたり一面黒い霧にして視界をふさいだ。


 ラッドと戦ったように殺気を消しつつ隠密を使い存在感を消す。ここしかない! 背後をとって胸元に短剣を突き刺しに行く。


「甘いわ!」


 トニーさんがそう叫んで俺に斬りかかってくる。


(わかっていた)


 予測していたからこそ水分身を出して避けることができた。この攻撃で倒すのは無理だ。だから...。だから! 今の攻撃で位置はわかった。


 火と水の複合魔法で大気中に雲を作ってから氷魔法を組み合わせて放つ。


落雷ライトニング!」


 落雷ライトニングを使ったことにより黒風コクイが消える。


 殺気と隠密で気配を消して、黒風コクイで視界をふさいだ。完璧だと思った。それなのにトニーさんはギリギリのところで直撃を避けていた。


(クソ!)


 行けたと思ったのに! もう魔力がほとんどない。おしまいなのか...。そう思った瞬間


「わしのまけじゃ」


「え?」


 突然トニーさんは敗北を宣言した。


「なんでですか...」


「足じゃよ。避けきれたと思ったのに足に当たってしまった」


「...」


「今の状態でノアくんと戦うことはできない」


「勝者ノア!」


 試験が終了したと同時に歓声が沸く。


「やりおったぞ!」


「あの子は誰なんだ? 護衛として欲しい!」


「私も欲しいわ」


 だけど観客の声が聞こえてこなかった。嬉しくない...。落雷ライトニングが当たったのは運でも実力でもない。トニーさんが歳をとっていたからだ。もしトニーさんがもっと若かったら? 


 こんな状態で喜べるはずなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る