第10話 試験開始


 トニーさんと対面して試合開始合図を待つ。


(観客が多い)


 多分王宮で働いている人や貴族の方々、そして魔法で市民に放送する人たちが来ているのだろう。


「そんな硬くならずに。これは模擬戦。真剣勝負とは違って命の取り合いじゃないんじゃ。それに私はもう老いぼれ爺じゃよ」


「あはは...。精進します」


 ちょうど会話し終えたところで試験が始まった。お互いまずは様子見...。


(やばい...)


 隙が無い。この域まで行くとここまですごいのか...。俺が少し動くだけでトニーさんも少し体を動かして牽制してくる。


(本当に勝てるのか?)


 油断していた。試験が始まる前はまだ少しは勝機があると思っていた。でも面と向かってみると勝つことがどれだけ難しい事かがわかる。どんな戦術で戦おうか考えていると、トニーさんが話しかけてきた。


「どうした? 来ないのか?」


「...。まだ考え中です」


「そうか...。じゃあまずは小手調べから」


 すると一瞬にして間合いを詰められる。左から来ると思った攻撃は右から来て、それをギリギリで受け流す。でもまたすぐ攻撃が来る。次は右、左、上のフェイントを入れられつつの攻撃。


(あぶな!)


 連続で攻撃されたため受け流すことができなかったため、受け流すことを諦めてよけることに専念した。数ミリのところでよけることができたがまた攻撃が来る。次は右、左、上、下のフェイントを入れた後に本命の攻撃が来る。


「!」


 この攻撃を避けることができずに腕を負傷する。このままじゃ危ないと思い、後ろに飛び一旦距離をとる。するとニコニコ笑いながら


「その歳でここまで戦えるのに感心したぞ。まだ若者も捨てたもんじゃない」


「...」


 もう話す余裕すらない。この強さ、なんなんだ。この歳でこんな動きができるのか...。


「それで考え事は終わったかい?」


「!」


 防ぐことで精一杯になっていた...。まだどうやって攻めるか決めていなかった。


 次は合図なしに正面から攻めてきた。鋭い一撃。多分避けなければタダでは済まない。直感がそう言っている。


「この感触...」


 水魔法とシュリの時使った歩法の組み合わせで水分身を作り、避ける。


(なんで忘れていたんだろう...)


「そんなこともできるのか!」


「...」


 なんで忘れていたのだろう...。シュリと戦った時、偉そうに言ったことを忘れていた。


 暗殺者とは暗闇の中、標的にバレず殺すこと。それが暗殺者だ。だったら...。


 風矢エア・スピアでトニーさんに攻撃をする。


「そんなの当たらんよ」


 知っている。だけどこれなら? さっきは1発しか打たなかったが、次は連続で放つ。


「だから当たらんって」


 それも知っている。当たるなんて思っていない。でも気を引くことはできたはずだ。そこで緩急をつける歩きをして残像を出した。


「!!」


 多分俺の位置はわかっているはずだ。


 ここから本当の試験が始まる。そして快進撃が始まった。

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