第9話 試験相手


 なぜあそこまで強いか納得がいく。それと同時に尊敬と可哀想という感情が生まれた。


(本当にすごい...)


 子供の頃何度この家に生まれて後悔したことか。毎日毎日死に物狂いで訓練をする辛さ。それに加えて同年代の友達はできない。そんな境遇が嫌だった。でもラッドはより辛かったんだと思う。俺はまだ父さんや母さんがいる。身近にルビアだっている。でもラッドはどうだ? 親父が王族の生き残りと言っていたことから家族はもう死んでいる可能性が高い。それに加えて信用できる存在も殺されたかもしれない。


 もし俺がラッドと同じ境遇になったら...。そう考えるだけでゾッとする。多分悲しみや憎しみ、恨みでいっぱいになっていただろう。それなのにラッドは俺の家に来て前に進もうとしている。


「ノア。今お前が勇者パーティをどう思っているかはわからない。でもラッドくんみたいに後ろは振り返らず、前だけ見て進んでもいいんじゃないか?」


「あぁ」


「後、この話は母さんとお前と俺、そしてローリライ家しか知らないから誰にも言うなよ」


「わかった」


 もし口外でもしてしまったら国の危機に陥る可能性もある。それにラッドが危険な目にあってしまうかもしれない。それだけ重要な情報ってこと。


「今日話したかったのはこれだけだ」


「あぁ」


 ここまで父さんと話すのが久々だった。俺の父さんは無口で淡々と仕事をこなす人だから小さなころからあまり会話することがなかった。


「後、明日頑張れよ。お前なら大丈夫だ」


「あぁ」


 親父に褒められる、認められることなんて今までなかったから嬉しかった。


 そして模擬戦当日。王宮に入るとルートさんが案内をしてくれる。


「聞きましたよ。ルビア様の護衛をやるための試験なんですよね?」


「はい」


「だから昨日、今後宜しくお願いしますといったのですね」


「はい。まだ決まってませんけど」


 その後話すこともなく、王室前に着くとルートさんが


「大丈夫です。ノアくんの実力は知っているつもりです。心配などしていません。良い報告を期待してます」


「はい。行ってきます」


 ルートさんに会釈した後、王室の扉を開けた。中にはローリライ家と護衛数名、そして見たことのないおじさんが立っていた。


「ノア! おはよ~」


「おはよ」


 王室でため口をするのは心苦しいがルビアとの約束を破るわけにはいかない。すると国王が


「じゃあ今から試験を始める。内容は模擬戦。試験相手は聖騎士---トニー・ブラウン」


 なんでこの人がここに...。トニー・ブラウン。誰もが一度は聞いたことがある。魔族と人族の平和条約を結んだ時功績をあげた人物の一人であり、世界最強の呼び声が高い12騎士の一人。


 少し絶望を感じたがルビアとの約束を守ると決めたんだ。どんな相手だろうと諦めるわけにはいかない。


「わかりました」


「はい」

 

 そうして模擬戦会場に向かい、試験が始まった。

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