第6話 手合わせ1


 稽古と言っても何をやればいいの? 昔俺がやっていた稽古を2人にやらせるわけにいかない。あんなのやらされたら絶対に辞めたくなる。


「そうですね。簡単に手合わせと言うのはどうですか?」


(手合わせか...)


 一番手っ取り早く実力を向上させるのは実戦だけど、実戦が常にできるわけじゃない。だから自分と拮抗している相手と手合わせをするのが一番実力を向上させやすい。まだこの二人の実力を知っているわけじゃないが、確実に俺より弱いのはわかる。歩き方や気配の消し方などで実力が判断できてしまっている時点で実力が離れていることが分かる。


 実力差が離れすぎている相手と手合わせをすると問題な点が何個かある。まずは自信喪失。戦う相手が年上、もしくは師匠とかなら話は変わるが、初対面の人や俺みたいに歳が近い相手と戦って負けると自信喪失する可能性が高い。


 二つ目に学べることが少ない。実力が離れすぎている人と戦うと相手が何をしたかわからずに終わってしまう。終わった後説明することで学ぶことはできるが、手合わせをしているってことは戦っている場で学んでほしい。


 最後が一番厄介で道を踏み外してしまうこと。これは1つ目の自信喪失と繋がっているが、自信喪失してしまった後立ち直れる人ならいい。だが立ち直れなかった人はどうなるか。一般的には違う道を選ぶ。だがごく一部の人は禁忌魔法など、違う方法で力を手に入れようとする。


「...」


「坊ちゃまが考えていることはわかっています。ですがこの二人と坊ちゃまの歳は近いです。なので同年代トップの力を知るというのもいい機会だと思います。ここで挫折するならそれまでということです。こんな経験ができる人はそうめったにいるわけじゃありませんので」


「スミスがそこまで言うなら...。でも本気は出さないぞ」


「わかっております。さじ加減は坊ちゃまに任せます」


「了解」


「じゃあどっちから始める?」


 俺はシュリとラッド、どちらから始めてもいい。でも逆の立場ならどうだ? 最初戦っている人をイメージして戦うことができるから俺なら後に戦いたい。でもそれはその人次第。俺は後に戦いたいタイプだが最初に戦いたいと思う人もいる。最初に戦うことで戦意喪失することがない。ほんの少しでも希望を持つことができる。


「わ、私からでもよろしいでしょうか」


「わかった。じゃあ始めようか」


 戦闘態勢に入る。短剣を構えてシュリを観察する。シュリは俺を見ながら徐々に詰めてくる。暗殺者にとってこれは一番やってはいけないこと。


 まず暗殺者とはなんだ? 暗殺という言葉が使われているように暗闇の中、標的にバレずに殺すこと。これが暗殺者の基本だ。でもシュリは俺に面と向かって接近してきた。手合わせとはいえ、正面に標的がいる場合どうすればいいか。方法はいくつもあるが、簡単に接近する方法は魔法を使うこと。魔法を使うことによって一瞬でも意識が魔法に向かう。その瞬間闇魔法である隠密を使い、接近して倒せばいい。


(ここで終わらせるのはもったいないよな...)


 本来なら魔法を使い接近すればいいが、これは相手のための手合わせ。シュリが近づいてくるのと同時に魔法ではなく、技術で接近する。


 歩く音を消し、緩急をつける。これは歩法の一種で相手には俺の残像が見えているだろう。これにシュリも驚いていて一瞬の隙ができる。それを逃さずに体術の1つである縮地を使い間合いを詰めて首元に短剣を突きつける。


「参りました」


 シュリの戦い方は暗殺者の戦い方ではなく戦士の戦い方。これを治さない限り暗殺者になることはできない。


(次行くか)


「はい。じゃあ次はラッドくんね」


「はい」


 手合わせする前の俺はシュリと一緒でラッドくんも弱いと油断していた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る