第10話 『和平協議』 その1


 宇宙ゴキにとって、『ミタメクマ星』から得られるものは、すでにあまりなくなっていたのです。


 確かに、地下の資源はまだ残っていますが、その採掘には、かなりのコストがかかりそうでした。


 掘り出す技術はありますが、ミタメクマ族に、その技術を奪われたくもないし、採算があまり取れないことは明らかで、今はどちらかと言うと、もっと地球に力を注ぎたい。


 そこは、まるで宝島のような星だったから。


 もっとも、人類のおかげで、大分汚染されてはいたものの、それでも、その魅力は月や火星や金星や水星も含めて、非常に大きかったのです。


 前司令官は、まったくの軍人で、勝つこと以外には目標がなく、経済的な損失や、ごき的な消耗、無駄使いなどにはさっぱり無頓着で、必要なものは、欲すればいくらでも勝手に出て来るみたいに思っていたのです。


 ちょっといくらなんでも無茶ですが、地球の古典派経済学に言う『セイの法則』みたいなものです。(『社会全体で見れば、需要総計と供給総計は、つねに一致する。』という、J.B.セイさまの学説。やましんは、むかし聞いたことがある、くらい。)


 老皇帝陛下も、軍人出身で、ちょっと似たようなところはあったものの、ここのところは、文官である総督にお任せになっていました。


 総督は、経済学が専門で、軍事は副科というところだったのです。


 なので、その判断は、結果的に、経済的に儲かるか儲からないかが、最重要でした。


 勝っても、すっかり消耗して貧乏になるなんて、おろかな事だったのです。


 ミタメクマ族にとっては、和平協議の絶好のチャンスでした。


 『あ~~~~~ごきごき。みなさん。我々は、現在地球に力を入れていますごきごき。』


 新司令官は、総督のお気に入りであり、軍人ではありながら、経済にも明るいごきでした。


 『もし、みなさんが、我々の宇宙ごき連合に加盟し、いくらかの無理のない、必要な協力をくださるのであれば、この際、対等な和平条約を結びたいごきごき。わが軍は、非戦闘員の連絡要員だけ残して、撤退するごきごき。もちろん、統治権は、あなたがたに返還するごきごきな。我々は、権力の行使は停止するごきごき。いかが? ごきごき。』


 『なぜ、連絡要員など残すのかくま。』


 『外交官ごきごき。まあ、大使館と言うものごきごき。』


 『ふうんん。ならば、我が方も、あなたがたの母星に大使館を作りたい。宇宙ゴキ連合に加盟するかどうかは、我々だけでは決められない。』


 『ふんごきごき。実は、あまり時間は使いたくないのでごきごき。1日だけ、猶予したいごきごき。拒否する場合は、やむをえず、占領を継続するごきごき。』


 ミタメクマ族側は、少し、ざわざわしました。


 『あなたの提案は、皇帝も、了解済みかくま。』


 みためくまさんの父親が尋ねました。

 

 『もちろん。保証する。ごきごきな。』


 『ふうん・・・・くま。我々の得ている情報では、皇帝の相続者を巡って、対立があるような話しがあるくまくま。第2皇子のような保守強硬派が、もし皇帝の座を得れば、どうなるくま。』


 『第1皇子は、お元気ごきごき。立場も強いごきま。また、もし皇帝が代替わりしても、決められた約束は、守るごきごき。宇宙ゴキの名誉がかかるごきごき。』


 『ふ~~~~~~~ん。くま。我らは、長らく支配されてきた。俄かに信じろと言われても、そこは難しい。何かの証明が欲しい。』


 『もちろん、合意文書は作成するごきごきな。』


 『先に、全軍を撤退させてほしいくま。そこからだくま。』


 『ガスの影響で、わが兵士は、みな、ふにゃふにゃごきごき。意味なかろうごきごきな?』


 そこで、大きな轟音が響いたのです。


 それこそ、あの巨大火山島の爆発だったのです。


 ミタメクマ情報員が駆け込んできました。


 『・・・・なんと、噴火しただくま?』


 宇宙ゴキ側も、ざわざわとしました。


 『・・・・ほう、ごきごき。ああ~~~~~~ごきごき。あの危険な火山が、1万年ぶりの大噴火のようごきごき。さて、どうしますかなあごきごきな。ああ、なんでも、あなた方の祖先が掘った地下道に、レジスタンスグループがいるみたいごきな。ご存知かごきごきな? あそこは、噴火の内容によっては、危険みたいごきごきな?』


 『む。くま。知っていたくま。あの連中は、過激派くま。ミタメクマ族の分派だくま。連中、少数派による独裁を掲げるくま。民主的な政権は望まない。』


 『なありほどごきごき。我々より、ましかごきごき?』


 『いやあ・・・くま。連中には、権力がない。数も少ないくま。』


 『ほ~~~~~~ごきごき。我々の諜報員からの情報では、地球人がその地下道に入ったらしい。コグマといっしょに。我々をぐにゃぐにゃにするガスを放出させた、地球人たちごきごきな。』


 『こぐま? う。』


 『ご存知かな、ごきごき。すぐに救出しなければ、丸焼けかごきなあ? ごきごきごきごき。』


 司令官は笑ったが、その目は明らかに真面目でありました。




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