第48話 ガードマンの朝――生き方の記憶




 夜が しらじらと あけそめ ます

 目の前の ファミレスの 灯も あたりの 薄明に とけこんで います

 あ わかい ウェイトレスさんが ちいさな あくびを していますよ🍴

 

 夜を 徹して 道路に 穴を あけたり アスファルトを のせたりして

 いた 男たちの 顔に いちように 疲れが かげを おとして います

 

 おおっと ぼんやり なんか して いられません

 夜っぴて 海産物や 野菜などを はこんで きた 長距離 トラックが

 つぎつぎに ブレーキ音を ひびかせながら 間近に せまって います

 

 ヘルメットを かぶった たくろうさんは 大あわてで 赤い ポールを 

 ふりまわし 停止位置 ぎりぎりの ところで トラックを 止めました


 はるか とおくから とばして くる 大型トラックに 派手な 電飾が

 またたいて いるのを かくにん しながら 蛍光タスキを 直しました

 

      *

 

 3年前 まで たくろうさんは 製薬会社の 営業マン でした

 病院や 開業医院を まわって 医師に 薬を 売る 仕事です

 

 診察を 終えて 廊下に 出て 来る 医師に 自社の 製品を

 売りこむ のですが 忙しい 医師に 邪険に あつかわれても

 つらい とは 思いませんでした なぜなら 病んでいるひとを

 たすける 仕事に 大きな 誇りを もって いた から です 

 

      *

 

 ある日 その 自信が とつぜん くずれて しまった のです

 会社の 上の ひとが 魚心に 水心の 大学教授に たのんで

 治療の データを 改竄かいざんして いた ことが 判明したのです


 結果的にせよ 命を 粗末に する 手伝いを して しまった

 たくろうさんの 受けた 衝撃は たいへんな もの でした💦

 

 自分は まったく 知らなかった ことでは あるし だまって

 首を すくめて やり過ごせば 世間の 関心も 薄れるだろう

 たくろうさんにも 守る べき 家族が いる のです(/・ω・)/


      *

 

 でも そのとき ある 言葉が 鮮明に 脳裡に よみがえりました

 亡くなった 父さんが 最後に 遺言 のように 語って くれた話

 

 ――おまえの じいちゃんは とても えらい ひと だったんだぞ 

 戦地で 上官の 命令に したがわなかった 見せしめに 最前線へ

 おくられ 敵の 銃弾に 当たって 戦死したんだ 立派な 父親を

 おれは 心から 誇りに 思って いままで 生きて きたんだ 🌞

 

 現地の 村びとに 銃を 向けよ という 理不尽な 命令を拒んだ 

 英雄は 仏壇の なかで いつまでも 若い 笑顔を 絶やしません

 

      *

 

 たくろうさんの 決意を 打ち明けられた 奥さんの たまえさんは

「じつはね 夜討ち 朝駆けが いつまでも きく 年代 じゃないと

 思って いた ところなの」 そう 言って 励まして くれました

 

      *

 

 ほんとうの ところ あのとき 製薬会社を やめて よかったのか

 同年代の スーツを 目で 追って いる 自分が いたりしますが

 一点の やましさも 感じずに いられる いまの 仕事も 好きで

 

      *

 

 あ もうすぐ 6時に なります

 さあ 急いで 立て看板を ダンプに 積んで 作業現場から 撤収

 のぼり はじめた 朝日が おだやかな 横顔を 照らして います

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