第9話 それでいいじゃねぇか
「おのれ……『人族』……」
ディザロア達は現れたヴォルトがEMPを食らって消滅する所でようやく気がつく。
刹那にディザロアが殺されかけていた事実に。
「ぐおお……」
苦しむヴォルトの様子から、イノセントはディザロアの持つEMP爆弾に気がついた。
『民間人に手を出すのは戦争のタブーだ』
ファウストは『
「上だ!」
ディザロアの声と同時にファウストに覆い被さる様に水が落ちてくると、そのまま彼を取り込み球体へと変化する。
『
ファウストは【EMP】を停止し【
特に苦もなく脱出すると散った水が意思を持つように集まり、一人の老紳士となった。
『今度は水かよ』
「ウォルター……」
向かい合うファウストに対し、ディザロアは襲来者の事を知っていた。
「お久しぶりです、ディザロア様」
丁寧にお辞儀をするウォルターにディザロアは警戒し、ファウストも、やれやれ、とアリスに分析を指示する。
すると、ウォルターは掌を前に出した。
「
『オレは今正に攻撃された訳なんだが。アレが挨拶って訳でもないだろ?』
「同胞の危機にて交渉を省いた事をお許し頂きたい」
ウォルターが掌をかざすと、水の球体が存在しその中に消えかけのヴォルトが保護されている。
「ウォル……ター」
「貴方がここまで死にかけるとは想定外ですよ、ヴォルト」
「私は……いい……『ソーラー』……を陛下……に……」
「ヴォルト、陛下が貴方の事を心配しています。この言葉の意味がわかりますか?」
「な……私が……陛下に……心配……を……」
「ここは退きます。異論はありませんね?」
「……承知……した……」
ウォルターはディザロア達の前に立つファウストを見る。
「恐ろしい力をお持ちのようだ。貴方は」
『オレからすればそっちの方がヤバイと思うけどな』
「それではお互いに手を出すのは不利益としても?」
『オレは別に構わないが――』
「一つ言っておきたい事がある」
ディザロアは、このまま終わることは出来ないと追求する。
「ウォルター、それだけで事が治まると思うか?」
「思っておりません。我らが魔王様と貴女方の魔王殿は一度話し合う必要があるでしょう」
「仕掛けたのはそっちが先だ」
「その認識で構いません」
「……戦争になるぞ」
『竜の魔王』の気質を知る者ならば、この件で報復行為に出ない事はあり得ないとディザロアは告げる。
「そうなれば仕方ありません。我が魔王陛下の手腕に委ねましょう」
「……それなら――」
ディザロアは魔剣を持って立ち上がる。
『雲の魔王』の五体の臣下は、竜族200体に匹敵する力を持つ。
その内の
一人でも減らして置くことは、戦争になった際に優位に働くだろう。
ディザロアからその意図を汲み取ったウォルターはファウストに尋ねる。
「貴方も同じ意見ですか? 『人族』の御仁」
『別にそのまま帰ってもいいぞ』
ファウストの言葉にディザロアは彼を見た。
「
『そうだな。ソイツが乱戦に現れたら流石に対応しきれないかもな』
「でしたら何故?」
『理屈じゃないんだよ。まぁ、オレの心得みたいなモンだ。誰だって死にたくないだろ?』
その言葉は単なる綺麗事には聞こえない。戦争と言う地獄を経験してきたファウストだからこそ、言葉に重みを感じさせる。
『どんな戦いでも、誰も死なずに終わるならそれでいいじゃねぇか』
ファウストの本心からくる言葉にウォルターは思わず笑った。
「それが貴方の真意なのですね。このウォルター、深く感銘いたしました」
『ただの自己満足だ。結局は上の連中に問題を丸投げしてるだけだがな』
わはは、と顔が見えなくても笑っている様を連想できるファウストにウォルターは一つ提案する。
「『人族』の御仁、我らが魔王様にお会いになってくれませんか?」
「!?」
段階を越えたウォルターの提案にディザロア達は驚きしか出ない。
「きっと、貴方様なら陛下を――」
『悪いが先約がある。割り込みは受け付けてない』
「そうですか。それではお名前をお聞きしても?」
『ファウスト』
「ファウスト様、気が変わりましたらいつでもお迎えに参ります」
『厚待遇は好きじゃ無くてね。その時はこっちから行く』
「それではお待ちしております」
その言葉を最後にウォルターの姿は水に還るとヴォルトと共にその場から消え去った。
『良かったのですか? 彼らは帰還するための情報を持っている可能性がありました』
「部下が一人でも居ればそうしたけどな」
『最優先は帰還が目的では?』
「それは最終目標。目先の問題を片付けて行けばいずれたどり着くさ」
『非効率な上に運要素が強すぎる選択です』
「今に始まった事じゃないだろ? オレはそう言うヤツだ」
『……了解』
「お前にもわかる時が来るよ」
そう言ってファウストは『人型強化装甲』を解除し、ディザロア達へ歩み寄った。
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