第8話 戦いの相性

目標ターゲットの質量は電位。EMP攻撃が有効だと思われます。しかし、拡散させても再構築まで15秒かかっていません』

「奴のエネルギー源はどこだ?」

『不明。少なくとも周囲の電位を集め、殺傷できる段階まで存在密度を高めていると思われます』

「……こっちの電力は取られてるか?」

『取られていません』

「映像記録は取ったな?」

『はい』

「奴は霧散後、再構築をする前に攻撃を行ったか?」

『いいえ。攻撃する際には必ず人形の密度まで造形を構築しています』

「お前の意見は?」

『仮定ですが、雷と同じく物質に被害を及ぼす場合、一致の密度とエネルギーを必要とすると思われます』

「なら、意識を持ったただの雷だ。供給源がない以上、使えるエネルギーも多くはない」

『了解。有効な武装を表示します』






 ヴォルトは久しく怒りを感じていた。

 小賢しい『人族』にここまでダメージを受けるなど、屈辱以外に何ものでもない。


 現在持てる最大の力にて一帯を消滅させてくれる!


『EMP最大出力』


 『人型強化装甲アサルトフレーム』の装甲が僅かにスライドし、その隙間から発せられたのは電磁波。

 範囲内の電位を消失・・・・・させ、周囲の電子機器を全て機能不全メルトダウンさせる兵器である。


「な……に……」


 水が波打つ様に数回に分けて発せられるEMPは『人型強化装甲』を中心に約1キロに効果を及ぼす。

 ヴォルトの姿は波打つ電磁波を受ける毎に散らされていく。攻撃を放つものの、ファウストに触れる前に静電気へと霧散した。


『お前の様な不思議生物がどういう原理で言葉を喋り、意思を持っているのかはわからない。だが、エネルギーの供給元もない状態で散らされ続ければ流石にくたばるだろ?』


 ファウストはヴォルトと言う存在は今この場にある電位だけで構築されているのだと仮定していた。


「馬鹿な……この私が……」


 周囲に散らされる電位を集める事が出来ない。いや、集めてはいるが、それよりも散らされる方が速いのだ。


 これからアナタは“ヴォルト”と名乗りなさい。


「陛下……」


 意識が遠退く。離脱するにはエネルギーを散らされ過ぎてしまい、逃げる事は出来なかった。


 否!  まだだ!


 その瞬間、ヴォルトは残り僅かな電位を集め、ファウストからディザロアへ照準を変える。彼女の首と刺し違える様にその背後に移動した。






「皆、無事か?」


 ディザロアは寄り添いあっている四人の元に駆けつける。


「ロア姉さんは?」

「私は大丈夫だ」


 その言葉を聞いたイノセントはディザロアの頬を叩いた。

 他の三人は始めての光景に面を食らう。


「お願いだから……あんなことは二度と止めて」


 イノセントは進んで死を受け入れようとしたディザロアに泣きながら懇願する。

 ディザロアは昔、無茶をしてフォレスに怒られた事を思い出した。


「……悪かった。二度としない」

「絶対だよ? 約束……」

「ああ、約束する」


 そう言ってイノセントを抱き締める。すると横からミスティークもディザロアの無事を安堵するように抱きついた。


「怒るタイミング逃しちゃったけど、イノが変わりに怒ってくれたからあたしからはそれで良いわよ」

「俺は何も出来なかったから特に言うことはない」


 二人が無事な様子にディザロアも安堵する。


「ビリア、ガンド。無事で良かっ――」


 ヴォルトの奇襲は、安心しきっているディザロアを狙って現れた。


「首を貰う――」


 ヴォルトが構築出来るのは顔半分と片腕のみであるが、ディザロアの首を焼き斬るには十分なエネルギーは残っている。


 所持者ディザロアが消えれば『オーバーデス』は『ソーラー』へと戻る。

 そうなれば、他の者でも回収は容易い。


 ヴォルトの捨て身の一撃はディザロアの命を確実に狙う一手として完璧なモノだった。


「ロア――」


 誰も反応出来なかった。そう、彼以外は――


「悪いな、それは読んでる」


 ディザロアが持っていたEMP爆弾グレードが至近距離にある一定数量の電位を自動オートで感知し、電磁波を炸裂させる。

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