第7話 兵士の居る意味

 『雲の魔王』には臣下は五体しかいない。

 かつて、『竜の魔王』との戦争では二人の魔王は直接戦う事はなかった。

 それは何故か。理由は一つ、五人の臣下が二百体に及ぶ『竜族』を完全に足止めしたことで、『竜の魔王』は動けなかったからだった。

 ヴォルトはその五人の臣下の一人である。






「あなたはロア姉さんを……助けてくれるの?」


 イノセントは縋るようにファウストに問う。


「ああ、絶対に助ける。だから、もう泣くな」

「……」


 優しくイノセントに言葉を告げる彼を見てビリアは根の拘束を解く。


「ありがとう」

「勘違いしないで……もし、ロアを助けられなかったら……あたしはあんたを許さない……」

「戦うのは兵士の役目だ。お前たちは兵士じゃない」


 『人型強化装甲』がファウストの背後から覆い被さるように重なると再びその身へと装備される。






『おはようございます、ファウスト大尉』

「おはよう、アリス。話は後だ。ステータスはどうだ?」

『駆動率95%。全ての武装を使用可能オールグリーン。敵勢存在を認識します』


 アリスはディザロア達を攻撃目標として認識する。


「彼女たちは違う」

『了解。では、離脱に行動を切り替えます』

「それも違う。交戦状況は継続。目標を変える」


 ファウストはディザロアへ凝縮した雷を放とうとするヴォルトへ投擲物グレードを放った。


「ロックしろ。敵勢存在ターゲットは雷だ」






 これで良い。

 私を所持者と認めている『オーバーデス』は私が生きている限り手元に戻ってくる。

 そして、『オーバーデス』を失った私は皆と居られない。

 呪魂は私以外を全て殺してしまうから……


「呪われた生よ、ここで終わるがいい――」


 ヴォルトが蓄積した電流を放つ時だった。二人の間に一つの球体が割り込んでくる。

 それは掌サイズの小さな金属球。音を立てて僅かに開くと、強力な電磁波を撒き散らし、周囲の電位を霧散・・・・・させた。


「!?」


 発動した瞬間の閃光でディザロアは少しだけ目がくらむ。


「な、なんだ?! これは――」


 対してヴォルトは形が維持できない程に存在感が明滅する。確実にダメージを負っていた。


接敵コンタクト


 『人型強化装甲』に身を包んだファウストは助走からの飛び蹴りでヴォルトを貫く。


「く……おのれぇ……」


 ヴォルトは完全に霧散した。辺りに静電気が舞う。


「お前は……」


 ディザロアは自由なファウストの様子からビリアへ視線を向ける。


『大切なモノがあるなら、進んで死のうとするな。最後まで足掻け』


 ファウストは頭部開放フェイスオープンし投げた球体を拾い上げるとディザロアに笑いながら手渡す。


「そうすりゃ、少しは世界の事をマシだと思えるさ」

「……お前はどうするつもりだ?」


 ディザロアは再び電位の集まる魔力を感じる。ヴォルトが再構築を始めているのだ。


「兵士のやることは一つだ」

「なら、私も手伝う。『オーバーデス』は多少だが奴に効果がある」


 不本意だがファウストと協力しなければ、この窮地は脱せないとディザロアは判断し共闘を提案する。


「お前は彼女は達の所に居てくれ」

「何を言ってる……ヴォルトは『人族』が勝てる存在じゃない」

「今、お前がやることは、家族から説教されることだ」


 ファウストの言葉にディザロアは、意識を取り戻して起き上がろうとしているガンドとビリア達を見た。

 今、何を優先するべきなのか。その答えを示すようにファウストは、ほら行けよ、と肩を竦める。


「勝てるのか?」

「勝算はある。それは持っておけよ? 御守りだ」


 ディザロアに手渡したグレネードの事をファウストは指差す。


「やってくれたな……生物風情が……」


 そして、ヴォルトの再生が終わり、先ほどよりも濃い密度の電位を集め目の前に降り立つ。


「死ぬなよ、ファウスト」

「お前はしっかり怒られろよ、ディザロア」


 ディザロアは後方の家族の元へ駆ける。ファウストは頭部を閉じ、彼女たちを護る様に怒るヴォルトへ対峙する。

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