第6話 意思を持つ雷

 かつて、東の空に荒れ狂った雷が存在した。

 永い年月をかけて自我を宿した雷は自らの力を誇示するべく数多の種族に攻撃を仕掛ける。

 『人族』に始まり『天翼族』へ。果てには『魔王』にさえも。

 狙われた『魔王』の何人かは成す術もなく滅ぼされ、ついには『竜族』を狙い始める――寸前で現れた『雲の魔王』の前に敗北した。

 以後、雷は『雲の魔王』に揺るぎ無い忠義を尽くす事を誓い、名を貰った。

 その名前は――






 朝日が島を照らし始める早朝。晴天の空にも関わらず、孤島に雷が落ちた。

 深緑の上空に居た魔鳥たちは轟音と光に一度、その場から離れざる得ない。


「見つけたぞ。『呪のディザロア』」


 落雷の中心地に立つ男はバチッと静電気が弾ける音と共にディザロアへ視線を動かす。


「お前は……『雲の魔王』の臣下ヴォルト――」


 ディザロアは彼の事を『竜の魔王』と共に『雲の魔王』と顔を会わせた時に居た臣下であると記憶している。

 バチチ、とヴォルトの姿が消えると同時にディザロアは首を掴まれていた。


「かはっ」

「お前が『ソーラー』を持っていたとはな」


 ヴォルトは探していたモノをディザロアが持っている事を確信している。


「何の……話だ?」


 ディザロアの首もとから零れる剣のペンダントをヴォルトは掴む。

 途端、ペンダントから魔剣へと戻りヴォルトを串刺しにした。

 形を維持できなくなったヴォルトはディザロアを放す形で霧散する。


「ごほっ! ごほっ!」


 呼吸を整えながら魔剣を手に取る。そして、最初の落雷で倒れている仲間たちを気にかけた。


「くっ……」

「痛た……」

「何が……起こったんですの?」

「え?」


 ただ一人、『人型強化装甲』の近くに居るイノセントとファウストは特にダメージを受けていない。

 イノセントは不思議そうに『人型強化装甲』を見ると装甲の隙間を光が動き、起動している様子が伺える。


「『オーク』『樹族』『人族』『雲族』『混血児』……歪な群れだな」


 周囲の電位が集まり、ヴォルトは再び形を成す。


「ここは『竜の魔王』の領地。戦争になるわよ?」


 ビリアの言葉にヴォルトは特に返答する事なく、雷撃で彼女を貫いた。


「かはっ……」

「!? ビリアさん!」

「――」


 ガンドは言葉による説得は無理だと悟り、ヴォルトへ拳を叩き込む。

 その拳に貫かれたヴォルトは微動だにする事なくガンドへ直接放電を見舞った。


「ぐおおお!?」


 一瞬で気を失い、重々しく倒れる。


「生物達よ。お前たちが私に攻撃を仕掛ける行為は余りにも滑稽だ」


 次にヴォルトはミスティークを見る。彼女はビクっと怯え、その場に座り込んでしまった。


「陛下の庇護にある『天空の民』が何故『竜の魔王』の領地にいる?」

「ヴォルト様……わたしは……」

「痴れ者が」


 ヴォルトがミスティークに攻撃を仕掛けようとする寸前、彼女を護るようにイノセントが両手を広げて前に出た。


「……人と竜の混血か。なんと無様な生物だ」

「うるさい! わたし達は無様でも痴れ者でもない! 何も知らないくせに……誰も助けてくれなかったから寄り添いあったのよ!」

「だからなんだ? 陛下の庇護する天空より飛来するわたしを前に貴様たちは、その辺りに這う虫と何ら変わりはない」


 その時、ヴォルトは背後から振り下ろされた魔剣の一閃により身体が二つに分かれる。


「流石に『ソーラー』の斬撃は少し散るか」


 身体が分かれたまま、ヴォルトは怒りの眼を向けてくるディザロアへ振り向く。


「ロア姉さん!」

「お前の目的は私だろう? 家族に手を出すな!」

「……フッ」


 閃光が一瞬だけ辺りを包み、ディザロアの身体を雷が貫く。空気が弾けるように爆発し、落雷と同等の衝撃が彼女を直撃していた。


「ぐ……あ……」


 声さえも出せない程のダメージ。魔剣を杖替わりに何とか足を立たせる。


「お前は家族と呼ぶ矮小な存在が居る限り、呪波を放てない。無様な因果だ。一人であれば今日死ぬことはなかった」


 ヴォルトの言葉は現状における真理をディザロアへ突きつける。


「……お前の目的は『オーバーデス』か?」

「そうだ」

「これと私の命を渡す……。他は見逃して欲しい」

「な……に……を……言ってんのよ」


 意識を取り戻したビリアは身体が痺れて動けなかった。

 首だけが辛うじて動く状態。声に関しては上手く出せない。


「ビリアさん……どうしよう……わたし……何も出来ない……」


 涙を流しながらイノセントは目の前で家族ディザロアの命が奪われようとしている様を見ているしか出来なかった。

 ミスティークもイノセントにすがって泣いている。


「ロ……ア……あんた……」


 三人の視線に気がついたディザロアは安心させる様に微笑んだ。


「お前達は命を無駄にするなよ」


 ヴォルトの右腕に電位が集まり、周囲の明るさを凌駕して行く。


 誰か……ロア姉さんを……助けて……






「大切なモノを護りたいと思うなら」


 その時、第三者が声を出した。


「今すぐ、オレと『人型強化装甲アサルトフレーム』の拘束を解いてくれ」


 それは木の根に縛られたファウストと、彼の装備を待つように明滅する『人型強化装甲』だった。

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