第5話 銃を下ろすには

 ディザロアは拘束しているファウストの腕を外すと、後ろ蹴りにて彼との距離を離した。


『クッ―』


 まだ間に合う。ファウストは再度ディザロアを捕まえようと手を伸ばし――


「おっと」


 木の根が二人を割って伸び、行動を阻害する。ファウストの手はディザロアの金髪にさえ届かなかった。

 ディザロアと入れ違う様にオークのガンドがファウストの前に立つ。


「……」

『ッ』


 ファウストは止まる。ガンドはディザロアと違い打撃に特化していると判断したからだ。

 機能の九割を停止している『人型強化装甲アサルトフレーム』では打ち合いさえも出来ない。

 【可変銃スタックライフル】を構えて距離を取る。


 システム再起動まで9分32秒――


『何故攻撃を仕掛けない?』


 ファウストは【可変銃】を向けつつガンドに問う。


「話し合いをしたいのだろう?」

『……本心と受け取っても良いのか?』

「信頼が無い話し合いで武器を突きつけ合うのは当然だ」


 畏怖と戦意により戦闘は継続される。

 ファウストはその事を戦争で痛いほど理解していた。

 そして、ソレを終わらせるにはどちらかが銃を下ろさなければならないことも――


『……『装備解除パージ』』


 【可変銃】を後ろ腰に仕舞い『人型強化装甲』を解除した。彼の後ろに残された『人型強化装甲』は沈黙を守るかのように佇む。


「オレの命はあんたらからすれば軽いのか?」


 ディザロア達にとって忌むべき存在である『人族』。ファウストもその枠から外れる事はない。


「……」


 魔剣を持つディザロアが前に出ると彼の顔面を殴り付けた。


「ぐふッ」


 気を失うファウストはディザロアの向ける眼が少しだけ変わっている事に一縷の望みを賭ける。

 首に下がる二つのドックタグが気を失う彼の上に重なった。


「……」

「いいのか?」


 ガンドはディザロアがファウストを殺さずに生かすことを選択したと判断する。


「コイツは危険だ」

「見たら解る」


 二人が話している間に、ビリアはファウストと『人型強化装甲』を木の根で動けない様に縛り上げる。


「だが、情報を引き出さずに殺すのは最も危険だ」


 ディザロアはファウストの持つ力を警戒していた。

 単身でこれ程の力を持つ『人族』とは戦った事がない。しかも、今まで見たこともないモノばかりだった。


「この力を持つ『人族』が20人も居るだけで魔王の勢力圏は大きく変わるか……」


 ガンドは直接戦ったわけではないが、警戒するには十分であると感じている。

 『人族』が集中する南の大陸がこれ程の技術躍進を行っていることを考えると、ここでファウストを殺し、全く情報を得られないのは危険すぎる。


「どちらにせよ、後の事はハン組長に任せる」


 自分達には手に余る件でもある。判断と処理は自分達を庇護している魔王に任せる方が良いだろう。

 魔剣をペンダントの形に戻し首に下げる。


「あのあの、何か一つ忘れてませんかー?」


 するとどこからともなく声が聞こえた。そして回りの空気が凝縮するように集まると『雲族』の少女――ミスティークが人形として形を成す。


「わたしですよ! わたし! このクソ野郎の回りの酸素を薄くしてロア姉さまを助けたのは!」

「ああ、ちゃんと解ってる。ありがとう、ティー」


 ディザロアはミスティークの頭を撫でる。


「えへへ。もっと褒めても良いですよ」


 コロコロと嬉しそうに笑う。その時、上空から、誰か受け止めてー! と言う声を聞いてガンドは落下してくるイノセントを受け止めた。


「ありがとう、ガンドさん」

「無茶をするな」

「ロア姉さん」

「無事だ」


 少し消耗しているが大事な事にはなっていないディザロアを見てイノセントは安堵の息を吐く。


「ロア、コレはどうするの?」


 ビリアは拘束している『人型強化装甲』の処遇についての判断を求める。


「破壊しよう。情報は残骸と、この『人族』だけで十分だ」


 まだ何かを隠している可能性がある以上、『人型強化装甲』の存在はディザロア達にとって不安要素でしかない。


「え! ちょっと待って、ビリアさん!」


 そんな『人型強化装甲』を見てイノセントはガンドの腕から飛び降りると興味津々で詰め寄った。


「何これ……ナニコレ……なにこれー?!」


 段々語彙力が下がっていく程に『人型強化装甲』はイノセントに取っては魅力的な技術モノだった。


「全く、イノ姉さんはやれやれですわ」


 イノセントの感性を理解できないミスティークは嘆息を吐きながら呆れた。

 拘束は完璧なので危険はないと判断。その様子を他の三人は微笑ましく見守る。

 上に戻るための魔鳥が集まって来るまではイノセントの自由にさせても問題無いだろう。





 ソレに反応できた者は居なかった――






 皆が安堵しているその場へ現れた彼の出現は落雷と同様の効果を発生させ、その場にいる者たちを吹き飛ばす。


「こんな所に居たとはな。『呪のディザロア』」


 落雷の中心に立つのは『雲の魔王』の臣下の一人であるヴォルト。彼はディザロアを見てそう告げた。

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