第4話 帰路断絶

「陛下。見つけました」


 『雲の魔王』の臣下の一人であるヴォルトは、雲海に佇む主の背に跪いて事を報告していた。


「前々からの懸念となる物事です。ぜひとも出撃の許可を」

「……『竜の魔王』の領地でしたか」

「はい。アレは元は陛下の手によるモノ。その側に置く事こそが真に意味を持つと思われます」

「……待機しなさい」

「! しかし――」

「二度は言いません」


 ヴォルトは頭を垂れたまま歯を食いしばる。


「済んだのなら下がりなさい」

「……はい」


 ヴォルトは頭を垂れたままでいると、周囲の景色が変わり薄暗い洞窟へと移り変わる。


「我らが王は何と?」

「待機と……やはり、我々が道を作らねば陛下は“虚無”から出てきてはくれないようだ、ウォルター」


 ヴォルトはもう一人の臣下に事を告げる。

 前の戦争が終わってから主は“虚無”へと閉じ籠ってしまった。


「しかし、待機と仰ったのだろう? ならばその意に従わなければな」


 そう言うとウォルターはパシャッと水が落ちる音と共にその場から消えた。


「……しかし、アレを回収出来れば陛下の御心も変わるに違いない」






 魔剣が振り下ろされる。

 今まで全てを両断してきた斬撃は二人の戦いの詰めに入っていた。

 『人型強化装甲アサルトフレーム』を着るファウストの画面には今使える武装が表示されていた。


衝撃装甲ショックフレーム

「!?」


 ファウストに触れた瞬間、魔剣は大きく弾かれる。

 ディザロアは魔剣を手放なさない様に反射的に強く握った事で身体が僅かに浮き上がった。


指定オーダー肩部ショルダー


 推進装置による加速でファウストは肩部でディザロアへタックルを決める。

 二人を中心に深緑を水面のように揺らす衝撃波が周囲に流れた。吹き飛ばず、内部に浸透する衝撃は意識を揺らすには十分すぎた。


「く……はっ……」


 電撃と衝撃。短時間でこの二つをまともに受けたディザロアの意識をほんの数秒だけ落ちてしまう。

 その刹那、ファウストの背後に筋骨隆々のオーク――ガンドが着地。意思を持つ木の根もディザロアを助けるように迫る。


『全員、止まれ!』


 ディザロアを盾にファウストは向き直って聞こえるように叫んだ。


「……」

「なんて事……」


 ガンドと木の根はディザロアに武器を突きつけ人質に取ったファウストから距離を置いて止まる。






「またデケーのが出てきたな」

『機能不全が進行中。現在の稼働率29%です』

「再起動は何分かかる?」

『15分25秒です』

「再起動にかかれ」

『よろしいのですか?』

「それまで何とか繋ぐ」

『了解』


 ファウストは改めて【可変銃スタックライフル】を抑えたディザロアに向け、会話を始める。






『こっちは対話を求めてる。戦闘行為は不本意な結果だ』


 ガンドは武器を持たず、代わりに両腕に鉄甲を着けている。体格からも肉弾戦が主体である事は明白だ。


『その場から一歩も近づくな。それから、木の根を操ってるヤツも居るだろう? 姿を現せ』


 その時、木の根がファウストの死角から奇襲をしようと動く。

 刹那、ソレを読んだファウストは一瞬だけ【可変銃スタックライフル】をディザロアから外し、近くの木を射撃して破壊する。

 ディザロア達から見れば妙な武器を向けられた木が不意に破壊された謎の力のように映った。


『余計なことをすれば誰かが死ぬ』

「……ビリア」

「……」


 深緑の上から戦いを支援していたビリアは木の根を階段替わりに降りてくると、ファウストの前に姿を表す。


「これでいいか?」


 ガンドはディザロアが人質に囚われている以上、ファウストを刺激しない選択を行った。


『こちらの要望は状況の把握だ。まず、ここはどの国の領地だ?』

「『竜の魔王』領地にある孤島だ」

『……緯度と経度は?』

「イド……? 何だそれは?」


 ガンドの返答にファウストはしばし沈黙。そして質問の趣旨を根本的なモノへと変える。


『この世界の名前は?』

「フリーレリア」

『……』


 何かを考えるようにファウストは再び沈黙した。ディザロアは脱出の機会を伺うが『人型強化装甲』は最低限の状態でも筋力補助マッスルスーツとしても機能するため易々とは行かない。


「そちらの要望は叶えたか?」

『……いや、後一つある』

「聞こう」

『世界を越える技術や情報はあるか?』


 それは至近距離で聞いていたディザロアだけが祈るような彼の口調を感じ取れた。


「そんなものは聞いたことない」

『……そう……か』


 その時、ファウストは違和感に気づく。

 戦闘後で気分が高揚していた事とアリスの支援を一時的に遮断していて気づかなかった。

 耳鳴りと息苦しさ。まるで酸素が薄くなったような――

 意識が明滅する。その隙をディザロアは逃さなかった。

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