第3話 『人型強化装甲』―アサルトフレーム

「ありがとう、スカイ」


 問題ない高度まで降りたディザロアは駆けつけてくれた魔鳥にお礼を言うと手を離して深緑の中へ入る。

 ヤツが落ちた地点に視線を向けつつ横に手をかざすと、放った魔剣が戻って来た。


「……死んではいないか」


 魔剣を片手に敵の落下した位置を散策するが、枝が折れている以外に姿はない。


「ビリア。ヤツの位置はわかるか?」

『この森が全部“あたし”って訳じゃないからね。逃げたとしても痕跡は無さすぎじゃない?』


 魔力を介して会話は長年連れ添った仲でなければ不可能な芸当である。

 特にビリアは『樹族』として、村周囲の木々に自分・・を混ぜている為、ある程度は索敵が可能であるのだ。


『ガンドさんとミスティークが援護に降りるわ。ロアは――』


 通話に意識を傾けていたディザロアは落下地点にて【光学迷彩】で姿を隠していたファウストが真横から現れる事は全くに想定していなかった。


「!?」

『チェックメイト』


 その手には【放電射撃スタンショット】を直接打ち込むべく、電流が這う。






 『人型強化装甲』――通称、アサルトフレームはイギリスが開発した特務鎮圧兵器である。

 月に存在する鉱石――ムーンストーンを使った装甲は軽いながらも衝撃に対して高い適正を持つ。

 加えて最新のナノマシン機能を搭載し性能の可変を現実化。あらゆる状況下で最適なパフォーマンスを可能とする。

 昔から数多の国が研究していた兵器が今世代において実用化に至ったのは、複雑な工程を処理する事が出来る、あるAIの誕生にあった。


 それが、支援AI『アリス』である。

 世紀の天才、アンバー・ストレンジによって生み出された彼女は、自らが創られた存在であると自覚した自我を持つAIである。

 アリスの出現によって操作が複雑になる『人型強化装甲』の問題を一気に解決し、その実用化を可能とした。


 兵器の歴史の分岐点となる、AIと兵器。

 今はアリスの処理が出来る体数が限られている為、『人型強化装甲』は少数量産に留まっているが、いずれは軍の主力兵器となる事は確実とされている。


 ソレを扱うのは第三次世界大戦にて、最も多くの部下を還した男――ファウスト・F・ゴードン。

 彼は自らの小隊に所属している部下を誰一人として死なせることなく終戦まで生き延びた。

 その点を評価され『人型強化装甲』の特務兵に抜擢された経緯を持つ。

 約五年の間、特務小隊『スカルフラット』の隊長を勤め、アリスと共に数多の任務をこなして来た『人型強化装甲』を最も扱える人材であった。






 たまに【放電射撃】が効きづらいヤツがいる。

 その場合の対応はいつも力強くであるが、現状ではリスクのほうが大きい。


「チェックメイト」


 プランB、一人を確保し一度場を仕切り直した上でこちらの意見を通す。

 『人型強化装甲』も本調子でない以上、これ以上は時間をかけられない。


 ファウストの奇襲は完璧だった。

 ディザロアの魔剣を持たない側からの接近と意識の虚を突いた。

 彼女を確保し、改めて話し合う。


「――」


 ディザロアはファウストの接近に反応した。一歩、その場から跳び離れつつ、空中で向きを変えながら、魔剣を下から掬い上げる様にファウストへ振る。


加速ドライブ

「!?」


 しかし、間合いは空かなかった。背部にある推進バーニアによる加速。距離がゼロになる――


「ぐぁ!?」


 腹部と肩にファウストが触れた刹那、弾けるような音と共にディザロアへ意識を刈り取る【放電射撃】が見舞われた。


『対象に【放電射撃スタンショット】を確認』

「セーブしろよ!」


 ゼロ距離では出力を間違えば殺す事にもなる。その辺りの調整はアリスに任せていた。

 その時、全く警戒していなかった事が起こる。

 横からファウストを弾くように木の根が飛び出して来たのだ。


「うお!?」


 各部の推進装置で姿勢を整えてファウストは着地。改めてディザロアを見ると。


「……終わりだ」


 魔剣を振り下ろす彼女の姿があった。

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