第2話 武力行使
ディザロアの身内の中に純粋な『人族』は存在しない。
その理由は身内の大半が『人族』と因縁があるからである。
奴らは姑息で、平気で嘘をつき、言葉巧みに他を貶める。
そんな身内の中でも比較的に新参でもある炎鬼とラインはディザロアが助けるまで『人族』に動物以下の扱いを受けていた。
故にファウストが『人族』だと解り、攻撃を仕掛けるのは事情を知る者なら理解できるだろう。
「く……あ……」
「うぐぅ……」
「勘弁してくれよな」
ただし、彼らにとってそれで敵が倒せるかは別の問題である。
「! ビリア!」
ディザロアは飛びかかった二人が不意に痺れて倒れた様子を見逃さなかった。
「まったく、あの子達は血の気が多いねぇ」
ビリアは地面に手をつけるとファウストの足元に倒れた二人を護るように根を出現させる。
その時、角笛が鳴り響いた。イノセントがビリアの指示を完遂したのである。
「全員聞いたな! その通りに動け!」
全体への指示に各員は動き出し、ディザロアだけがファウストに向かって駆けた。
「正当防衛なんだけどな」
ファウストの顔は再び金属の頭部に覆われた。
『何らかの命令信号と思われます』
「話し合いの余地は残ってると思うか?」
『それは私よりも大尉のほうが解るのでは?』
「まぁ、プランBで行くか。アリス、アーマーの調子は?」
『
「再起動は中断のままでいい。動作補助と感覚強化だけ残して使える武装を選定しろ」
『了解』
ファウストはディザロアに向かって走り出す。
互いに走り寄った事で数秒と経たずに二人は間合いに入る。
その瞬間、ファウストの姿が消失した。
「!?」
まるで空間に飲み込まれるように目の前で消え、ディザロアは思わずその場に立ち止まる。
不意に痺れる感覚に襲われた。全身を這う様な電撃であり、これに炎理とラインはやられたのだと体感する。
「『人族』らしい、姑息な手段だな」
しかし、ディザロアにはあまり効果が無い。少しびっくりする程度だ。
「そこか」
ディザロアは剣のペンダントを手に持つと横に振るう。瞬時に現れた魔剣が空を切ると衝撃波がファウストを襲った。
『おい、どこから出した?』
バチバチと電流を這わしながらファウストが姿を現した。
「お前が知っても意味はない」
『どうかな』
ディザロアが魔剣を持つ意味を彼女の身内たちは理解している。巻き込まれないようにその場から離れ始めた。
『オレも離れた方がよさそうだな』
周囲の様子からファウストもディザロアから距離を取ろうとすると、眼前に魔剣の切っ先が迫っていた。
『うお!?』
半身を逸らし投げられた魔剣を躱す。しかし、時間差で組み付いてきたディザロアは躱せない。
『おいおい――』
不慣れな態勢でタックルを受けたファウストはそのままろくに抵抗できずに崖まで押されていく。
『お前も落ちるぞ』
「気づかいは無用だ」
ディザロアは躊躇いなくファウストと共に崖から身を投げた。
『マジか!? お前!』
宙に投げ出されたファウストは地面まで相当な高さを確認。無事に着地するにも態勢が悪すぎる。しかし、それは彼女もも同様のハズ――
「じゃあな」
彼女はファウストから離れると滑空して来た魔鳥に掴まり落下速度を十二分に殺していた。
『そんなんアリかよ』
下にある深緑にファウストは呑み込まれて行く。
「ロアは無事ね」
ビリアは崖際で滑空しながら下へ降りていくディザロアの姿を確認し、安堵の息を吐く。
身内の事となると無茶をするのが彼女の短所である。
「いきなり『オーバーデス』を出すなんて、あんたもあの子達の事言えないわよ」
倒れた二人は根から解放され治療を受けていた。とは言っても大事には至らない様子で受け答えはハッキリしている。
「ビリアさん! ヤツは!?」
「殺す殺す殺す」
「元気と殺意いっぱいね、あんた達」
「二人とも駄目ですよ。まだ安静にしなさい」
炎理とラインを諌めるのは『天翼族』の男――フォルエルである。
「フォル。そのじゃじゃ馬二人をちゃんと見ててよ」
まだ精神的に療養が必要な二人を、古参のフォルエルが面倒を見ているのだ。
「二人とも避難しますよ」
「けど、フォルさん!」
「殺す殺す殺す」
「ロアが『オーバーデス』を出しました。その意味が解りますね?」
フォルエルの冷静な言葉に二人はディザロアに近づいてはならない事を察する。
「ビリア、子供たちはワタシが見ます。貴女はロアを」
「ええ」
本来なら何の心配はないがあの敵は得体が知れなさ過ぎるのも事実だ。
「……あたしだけか。今のロアに近づけるのは」
ビリアは崖から伸びてくる根に足場を移すと、ディザロアに続くように下へ降りていく。
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