1章 仁義と破壊の魔王

第10話 アリスとイノセント

 孤島で廃村を見つけた当初に、ディザロア達がやることは衣食住の整備だった。

 まだ、個々の家を作るだけの余裕は無く、取り敢えず大きな屋根だけを作って皆で一つ屋根の下で眠る。


「ディザロア、ここに居たのか」


 早朝、鍛練の為に毎朝早起きしているオークのガンドは、少し離れた崖際に座って朝日を見ているディザロアを見つけた。


「お前も毎朝、よくやる」

「習慣みたいなモノだ。お前もそうだろう?」

「私の場合は確認だ」


 それは己の呪魂との向き合いだった。

 朝日起きて、誰も死んでいない事を確認する。

 育ての親であったフォレスが殺されてから、身内の死に対してディザロアは過剰になっていた。


「マイ、オーベロン、フリック、ネージア。あいつらはここに来れなかった」


 それは旅の中で死した者達。生きていれば何を成したのだろうか……


「私が護らなければならなかった」


 ずっと後悔している。四人の死は決して忘れてはならないと、彼女は生き延びた家族を見てそう誓うのだ。


「俺はお前のように要領が良くない」


 ガンドはいつもの鍛練である正拳突きを始めた。


「ならば、鍛えて、鍛えて、鍛えるしかない。いずれ驚異が来ると言うのなら、今は備えるしかないだろう」

「……そうだな」


 呪いそのものである自分が生きている限り家族の驚異は無くならない。

 ディザロアはペンダントになっている、『オーバーデス』を一度触り地平線から昇る朝日を瞳に映した。






 孤島に来てから理不尽に家族を失う恐怖は無くなった。

 自分たちで生きて、自分たちで考えて失敗もして、少しずつ良くしながら今の生活にたどり着いた。

 しかし、この問題はかなり繊細な事になるだろうと、誰もが考えている。


「それで、オレはどうすればいい? 大人しく縛られた方がいいか?」


 『人型強化装甲アサルトフレーム』を外したファウストは自らを捧げるように殺意与奪をディザロア達に預けていた。

 彼女たちが忌むべき存在である『人族』であるファウストだが、助けて貰った事を差し引いても卑下には出来ない。


「……ああ。ビリア、コイツを縛ってくれ」

「そうね」


 ディザロアの意見にビリアも同意する。ソレがファウストを護る事にもつながると理解しての事だ。


「命を救った事を加味して一つだけ要望を聞いて欲しいんだが」

「聞くだけ聞いてやる」

「『人型強化装甲』は破壊するな。次に雷のヤツが来た時に全員で死にたいなら別だが」


 ファウストは、自分と『人型強化装甲』はヴォルトに対抗する手段になりえると告げていた。


「それは私達にとっても脅威にはなるのではないか?」

「武器は人を殺さない。殺すのは武器を使う者の意思の問題だ」


 そのデカい剣と同じだよ、とディザロアの魔剣をファウストは示唆する。


「……分かった。ソレは譲歩しよう」

「いいの? ロア」

「ただし、譲歩するのはそれだけだ。命を救われたと言っても私達と『人族』の確執はそう簡単には埋まらない」

「そうかい」


 苦笑するファウストにディザロアは毒気を抜かれた。彼のペースはこちらの敵意をことごとく躱すような、妙な感じである。

 スカイ達の再集結を待つ間、ファウストと生息する魔物を警戒する皆とは別にイノセントはツタで固定された『人型強化装甲』を興味津々だった。


「『人型強化装甲そいつ』が気になるか?」

「え、あ、はい」


 イノセントは片目を前髪で隠すと、ファウストに向き直る。


「頭だけなら被っていいぞ」


 ファウストの言葉にイノセントはディザロアを見る。危険はないだろうと、判断した彼女はアイコンタクトで構わないと、意思表示した。

 そして、イノセントは『人型強化装甲』の頭部に触ると、カチカチ、と音を立てて首部から離れる。


「下から潜る感じで行けるぞ。大きさは自動で合わせてくれる」


 誘導に従ってイノセントは意を決して頭部を被る。閉じた目を開けると少し暗い。しかし、次の瞬間には普段目で見ている光景が目の前に表示された。


「わ、わわ。なにこれ。凄い――」

『……これは重大な違反行為です』

「わきゃ!?」


 不意に聞こえた声に、イノセントは思わず転んだ。

 ファウストは、初めてVRを身内がつけたときはこんなんだったな、と笑いを堪える。

 ディザロアは、何をやってるんだ、とイノセントに手を貸して起こした。


「誰?」

『…………』

「彼女たちは他国の人間ってわけじゃないからな、機密もクソもない」

『それでもワタシの存在は秘匿するべきだと思います』

「誰誰!?」


 姿の見えない第三者の声の主を捜して、イノセントは視界をくるくる回す。


『こんにちは。イノセント』

「え? あ、はい……こんにちは」

『ワタシは作戦支援AIのアリスと申します』

「作戦支援えーあい?」

『この『人型強化装甲』に存在する効果処理プログラムの一部であり、人格を有する事で柔軟な対応を可能とした最新鋭のAIでもあります』

「ぷろぐらむ? えーあい?」

「そいつは友達が少ないんだ。話し相手になってやってくれ」

『大尉、この件はオーランド少将へ報告案件といたします』

「聞こえんが何言ってるか分かるぞ。別世界なんだから少しは進んで友達を作れ」


 そんな事をしていると、魔鳥たちが集まり村へ帰る為の台座を降ろして来た。

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