第6話 Kirby

 ただし、二度と彼らに会うことはなく、友達になることもありません。

 ぼくが英語を巧みに話すと、みんなが笑顔になって満足して帰る。それだけ。

 そんな撃退ゲームに飽き飽きした頃、クリスがやってきてぼくを日本人の男の人に会わせたのです。

「しばらく、この人のところで生活して」

 クリスはべったり貼り付くのではなく、数日に一回、会いに来るだけ。

 江森辰司と言う牧師さんです。ハリウッドに近い小さな、まるで納屋のような教会で、江森さんは九州生まれの八十歳でした。

「ガウディの教会とはずいぶん違いますね」

「おお、ガウディを知っているのか。まあ、あれはカトリックの教会だからね。うちはちょっと違うんだよ。ハハハ。ガウディか。あんな化け物みたいな教会、どこがいいんだろうね」

 元気なおじいちゃん。彼の家族は大勢いるようでしたが、いつも家に居るわけではなく、ぼくは江森さんのお世話やお手伝いをしながら学校に通うようになりました。

「シュン。おまえは、神様の子だからね」と江森さんはよく頭を撫でてくれました。

「シュン・カベノ」と学校でもいろんな人から言われて、「中国人?」「インド人?」中には「イタリア人?」とか言われたこともありました。

 カベノという名から、いつしかカーヴィーと呼ばれるようになっていました。

「ぼく、学校へ行かなくていいんでしょうか」と江森さんに聞きました。不安だったのです。

「確かに、私たちは学校で学び、友を得て、さまざまな経験を通して大人になっていきます。君もそうできるかもしれない。でもね、ほかの人にとっては必要なものが、君にはなんの役にも立たない、むしろ害悪になってしまうってこともあるのです」

「害悪?」

「いま、君がこの近くの学校へ行くとしましょう。君の持っている知識は、その生徒や先生を圧倒的に上回っています。ハイスクールへ行ってもだめでしょう。カレッジならきっといい学びが得られる。ただ、いまの君はカレッジで生きていくには……」

「背が低すぎますか?」

 江森さんは大笑いをしました。

「君がみんなからカーヴィーと呼ばれているのを、私はとてもうれしく思っているんだよ。君は人気者だ。天才でなおかつ人に好かれるなんてことは、世の中ではあまりない。君は人を魅了させるなにかを持っている。とても優れている。とはいえ、成長してくにつれて、私なんかには想像もできない悩みや不安にぶつかるかもしれない。ここから出て行く日があっても、いつでも、戻って来なさい。ここは君の家だ」

 話を逸らされた気がしました。

 たくさんの人たち(すべて大人ですが)と交流する日々の中で、毎日、楽しかったわけではありません。

 カリフォルニアでも、その頃は、まだ日本人は敵国だと考えている人たちも大勢いました。二十年ほど前まで、戦争をしていたからでしょう。日本と戦って死んだ家族の記憶を持っている人は大勢いました。

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