第3話 「アクシデント」
そんなこんなで、姉妹達は待っていたわけだが・・・・。
「うるせぇ!勝手にしろ!ボケェが!」
と彼女らの創造者リードリッヒ・クレパスが大きな声を上げ扉の向こうから現れた。
唐突なことに彼女らはびっくりして、その場で硬直する。
「「「「「な、なんか・・・・怒っている?」」」」」
扉をぴしゃりと閉めた長い黒髪を頭の後ろで結っている青く透き通った
瞳を持つ男を見た5体の感想であった。
その後も、壁を殴ったり蹴ったりして・・・意外と堅かったらしく自分の拳を抱いてうずくまった。
「痛っ!!!かってぇな!おい!」
壁に向かって言われもない罵声を浴びせる姿は・・・哀れである。
そんな、荒れているリードリッヒに近づくものが5体。
「あ、あの~~。マスター?どうされたのですか?」
主人マスターの顔色を伺う、心配げなメラニー。
「・・・・ふん!哀れだな」
哀れな人間に哀れと罵る心配を表に出さないサイファー。
「また!聖剣卿に虐められたんだね!私が懲らしめてやる!」
仇討ちを誓うトリア。
「・・・・・・・・・・・・・トリア姉さんに同意」
自分の影から【黒龍斧ゾル・ハルバード】を取り出そうとしているツム。
「わ、私がついていますから!だから自信を持ってください!」
怒りの原因がリードリッヒ自身の自信喪失だと考えたチューリッヒ。
「ん?あぁ~~。ごめんごめん、心配かけちまって。大丈夫だから。
ちょっと、奴にイラッと来ただけだから」
リードリッヒは駆け寄ってきた娘達に痛めた拳を摩りながら言葉を返した。
それに激しく反応した3体。
「部屋を氷で覆って凍死させれば、謝罪が聞けるかな?」
体の周囲の温度を低下させながら、怖いことを言い出すサイファー。
いや、凍死したら謝罪も何もないからね?
「よし!腕を2本落とせば、謝罪が聞けるかな!」
手のひらに風の渦を生み出しながら扉を見つめるトリア。
いや、駄目だからね?そんなことしたら出血多量で死んじゃうって。
「・・・・・・・・・・・・・・・首を落とす」
自分の背丈より長い得物【黒龍斧ゾル・ハルバード】を構えるツム。
いや、首どころか跡形も残らないから。
3体それぞれにツッコミを入れるリードリッヒ。
「ぼくは君の為を思ってあいつを氷漬け《凍死》にしてあげようとしているのに何で止めるのかな?」
「私も!ご主人様のことを1番に考えているの!だから、聖剣卿の腕を切り落とそうとしているのに〜〜!」
「・・・・・・・・・・・・私も・・・・・様の為に首落とす」
止めに入ったリードリッヒに詰め寄って文句を言う三体。
「いやいや、殺すのは不味いだろう。罪人になっちまうよ俺。人間界を追われちまうよ」
「では、これならどうでしょう?暗殺です」
しれっと恐ろしいことを口走る1番上のお姉ちゃんメラニー。
(笑顔が逆に怖いわ!)
「いやいやいやいや!お前まで加担するなよ!止める立場だろうが!」
「あら?そんな立場は知りません。私わたくしも妹達と同じ思いですよ。
どこかで聖剣卿には痛い目に会ってもらわないと・・・・・と考えてはいました」
「さ、さいですか・・・・・」
姉妹達のまとめ役であるメラニーがこの状態。さすがに引いちまう。
――――メラニーを筆頭にサイファー、トリア、ツムの4体が円陣を組み暗殺について
意見交換を始めてしまった為、どう止めようか考えていると、末っ子のチューリッヒが
リードリッヒの横へと寄ってきて
「兄あに様?嫌なことはぜ~んぶ!忘れて遊びに行きましょう?
ほら、兄あに様の好きな耳掃除もしてあげますよ?
今回は・・・・膝枕でも・・・いいですよ?」
耳元で囁ささやかれた言葉にはあま~~い誘惑が込められており、(あぁ~これは駄目なやつだ・・・)とほいっほいっと飲み込まれそうになる。
更に身長の低いチューリッヒが耳元に唇を寄らせる為だけに!
つま先立ちをしている姿は、愛らしく!可愛らしく!愛めでたい!衝動に駆られ・・・・た。
――――意見交換が暗殺日時まで話が進んでいる円陣会議。
4体のうち、最初に異変に気付いたのはサイファーだった。
さっきまでぼくたちを止めようとしていたリードリッヒの気配が消えていた為、円陣から顔を上げると、チューリッヒがリードリッヒの耳元でコソコソ話をしていた。
ただ、話をしているだけなら問題なかったのだが・・・リードリッヒの表情に異常が現れていた。
虚ろな瞳、頬が紅潮、口からは涎が・・・・。これは不味い!と円陣から離脱したサイファーはリードリッヒに駆け寄りチューリッヒから引き離した。
突然なことにチューリッヒは尻もちをつき「いたいっ!」と可愛らしい声で鳴く。
サイファーはリードリッヒを腕に抱え、激しく揺さぶった。
「おい!しっかりしろ!意識を保つんだ!」
揺さぶられているリードリッヒからは「耳~耳そうじ~~」と言葉を発しているが呂律が回っていない。
遅れて、円卓会議を切り上げた3体が駆け寄ってきた。
「マ、マスター!大丈夫ですか?ねぇ!」
「なななななにが!?起こっているの??」
「・・・・・・ぐすん」
本気で心配する3体と必死に揺さぶるサイファー。
で、この事態を引き起こした当の本体は・・・?
「いたいよ!も~~。せっかく兄あに様が気持ちよくなっていたのに~~邪魔して!
サイファー姉様、大っ嫌い!」
尻もちをついた状態で頬を紅潮させ、プンスカ、プンスカと可愛く怒るチューリッヒ。
「こいつッ・・・・!!」
サイファーがリードリッヒを抱えたまま、空気中に氷塊を展開した。
氷の先は鋭く尖っており、チューリッヒに向いている。
一触即発な状態。だが、この場面を打破したのは姉妹達のまとめ役であるメラニーだった。
「そこまで!!!」
戦闘状態に突入しそうな二人の間に入り、大きな声を上げた。
サイファーはメラニーの言葉を聞く気はなかったが、体の操作が効かなくなり、発動中だった氷が破砕した。操作が効かない事を理解してから目を閉じたが、まったく意味をなさなかった。
サイファーの魔法を打ち破り、次にチューリッヒに向き直り、今度はチューリッヒの魔法を消し去る。
これにより、リードリッヒの瞳に光が戻り、自分がサイファーに抱えられていることを理解した。
降りようと藻掻もがいたが、体が思うように動かない。
これは・・・・チューリッヒの仕業か。と恥ずかしい態勢で思考を巡らす。
そして・・・・(だから、こいつら怖いんだよな~~)と呟けるほど震えない唇で呟いた。
で、意識が沈んでいく。
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