第4話「駐屯地を後に・・・・」
天井の染みを数えるのは何日ぶりだろうか。
リードリッヒは見知れた天井の下で覚醒した。ここは、勇者兵団が拠点とする駐屯地。
魔界と人間界の魔界側に位置する人間世界で4番目に危険な拠点だ。
リードリッヒが今横たわっているのは、駐屯地内にある自室の寝床である。
どうして、こんな所にいるのか記憶を遡さかのぼってみると・・・・ダメだ。
思い出せない。何かモヤのようなものが掛かっており掘り出せないでいる。
う~~~う~~うん?んん?と自分の記憶と戦っていると寝室の扉からコンコンと優しい音が鳴った。
「お加減いかがですか?」
声からしてメラニーだろう。
「今さっき起きたところだ。入っていいよ」
扉から軽い音が発せられ、トレーを両手でもったメラニーが入室した。この香り・・・・紅茶かな?
「お目覚め時に良いと聞く果物フルーツの紅茶を入れてきました。
宜しければ、お召しになってください」
メラニーはトレーを低いテーブルに置き、模様が施された器に茶を注いだ。
様々な果物フルーツの香りが器へと注がれる度に放たれていく。
上体を起こしたリードリッヒは手渡された器から芳醇ほうじゅんな香りを放つ液体を口内へと注いだ。香り通りの甘味を舌が感じ取り、更に多くの紅茶を求めた。
何杯か注いだことで、落ち着きを取り戻したリードリッヒはメラニーに器を返すと
何があったのか?説明を求めた。
「実は・・・・ですね」
事の経緯を説明し出すメラニー。真面目ゆえか、最初から最後まで長時間の説明となった為、要約するとチューリッヒの魔法【精神支配】で幸せな夢を見させられた俺は、そのまま眠ってしまったらしい。
で、ずっと廊下にいるのも良くはないので(聖剣卿に出くわすと私たちの収まりが効かないかもしれない)宿舎へと移動してきたと。事を起こしたチューリッヒはメラニーが責任をもって叱責し、泣きまくっているそうだ。
あれ?サイファーも何かやっていなかったっけ?と疑問を説明中に口ずさんだら、メラニーは苦虫を噛み潰したような表情となり・・・「あの娘は、叱りましたが全然効いていないのですから、どうすればいいのか」と話した。あの娘の性格は難しい所があるからなぁ~と納得がいった。
ここで目覚めた経緯を知ったリードリッヒは、もう一杯紅茶を流し込むと、むむ?と怪訝な表情となる。
あれ?聖剣卿と何を話していたんだっけ・・・・?と。記憶が飛び過ぎだ。
あいつの魔法は結構強力なんだなと精神系魔法の恐ろしさを、身を以て知ることとなったリードリッヒ。
「俺ってさ、聖剣卿と話をしていたよね?その後に何か言っていた?」
とりあえず、メラニーに聞いてみる。
「いえ・・・特には。なぜですか?」
「いや・・・記憶が飛んじまってさ。何話していたんだっけな・・・って」
「あらあら、それは大変ですね。あんなにも怒っていらしたのに」
俺が・・・?怒っていた?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・あっ!!
重要な記憶がやっと蘇った所で、リードリッヒは寝床から飛び起きた。
「こうしちゃいられない!早くここから逃げなければ!
捕まったら何をされるか分からないっ!!」
驚くメラニーの両肩に手を置き、事情を説明し今後の指示を出した。指示を受けたメラニーは扉の向こうへと消えていったが、少し不安が残る。説明時に終始上の空だったからだ。
(なんか・・・・こ、こんな所では、恥ずかしいですとかなんとか言っていたが・・・・ちゃんと、理解しているだろうな?)
1番目に創造した人形であり姉妹たちの長女のメラニーを信頼してはいるが、抜けた所があるのも事実。そのように設計した訳では無いが、これが個性というんだろうか。まぁ、任せるとしようか。
まずは、自分の身支度をしなくては、移動に困らない量の荷物に抑えなくてはと、学術本やメモ用紙等を漁り始めた。
――――居間では、姉妹たちが
泣きべそをかいているチューリッヒ。
抜け駆けされたことに腹を立てている3体。
チューリッヒを責めないのは、先程までメラニーが鬼のような形相で叱責しており、その迫力に責める気をなくしたのと、自分たちもほかの姉妹たちの目を盗んで、抜け駆けしているし・・・・人のこと言えないなと思ったからだ。
そんな、重い空気が漂う居間に明るい声が響く。
「さぁ!みんな!移動の準備をして!」
メラニーが突飛なことを言い出し、困惑する一同。
「移動って何のこと?聞いてないんだけど」
壁に寄りかかって立っていたサイファーが腕を組み直しながら、問いかけた。
他の姉妹達も、サイファーの言葉に同意するように頭を縦に振る。
「今さっき、マスターから指示があったの。
なんかね「聖剣卿と決別したから、逃げないと殺される」って言っていたわ」
一呼吸おいて
「だから、とんずらするんですって」
ぽっかーーーんとする一同。突然の話に鳩が豆鉄砲を食ったような表情をする。
だって・・・・それは・・・・・・
「「「「もう、半日経っているんですけど?」」」」
「そうね。その反応は最もだわ・・・・」
この後の逃走劇が大変ね・・・と溜息をつくメラニーであった。
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