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「オメガ相手にか? 俺には理解できないな。互いに想い合ってっていうのもどこまで本当なんだか」
「本当も何も相手はいい奴だったよ」
「お前会ったことあるのか?」
思わず俺は足を止めてしまった。
琉はカミーユとの相手をもうすでに紹介されて、いまさら何も聞くことがなかったから黙っていたのか。
「ああ、ノースエリアの中央都市大学の付属高校で知り合った。物腰の柔らかで気さくでいい奴だったよ」
「中央都市大付属ね……お前やカミーユの価値観だからあれこれ言うつもりはないし、好きにすればいいと思う。でも俺は相手がオメガだなんて嫌だね」
「何故……?」
「だってそうだろ? オメガのやつらの発情期の罠にかかった可能性もあるじゃないか。そんなの本当に精神的な結びつきかどうかなんてわからないだろ? 悪いけど俺はそういうのは好きじゃない。動物的すぎてさ、俺にはなんだか下品な感じがする」
「アヤト!」
少し俺をたしなめるように琉は少しだけ眉根を寄せて、何か俺に言いたそうな顔をした。
「なんだよ、またお前は、俺に差別をするなというのか?」
睨み付ける俺の視線を琉は強くは返さない。
「アヤト、俺は……性別や種族にこだわるのはもう古い考えだと思っている……だから……」
何かを言いかけた琉を俺はすぐに制した。
「だから……? だから俺にあんなことしたっていうのか?」
「……ごめん……」
「また謝るのか? もう過ぎたことだ。俺は忘れたよ、もう気にしないでいい。オメガもありえないけど、俺は同種のアルファはもっとありえないことだからな」
俺の放り投げたような言葉に琉は口を引き結ぶとそれ以上何も語らなかった。
今でも少しだけ頭を過ぎるけれど、あれはどう考えても琉の気の迷いだと今は思う。
皮肉なことに琉の弾力があり、妙に吸い付くような唇の感覚だけが時折過ぎっては俺の胸の奥がチリチリと痛む。
別にアルファ同士で結ばれることもあるのかもしれない。
けれど俺はそれをどこかで拒絶している。
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