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こうして草木のある芝生の上を歩いていると、教科書で学んだ過去の惨憺たる歴史が嘘のようだ。
「今見ても信じられないな。こんなに澄んだ綺麗な空なのに……」
見渡す限り青いこの空が、かつてすべてが黒い雲に覆い隠され、地上が零下100度を越える気候であったなんて考えられない。
そしてそのまま一世紀も地中で暮らす生活があったということも。
琉も俺と同じように目を細め空を仰ぎ見た。
「二世紀前の戦争は宇宙線による流行り病だけでなく、それによって起きた暴動、そして4、5発の核が地球の形だけでなく環境そのものを変えた。そして地下のもっとも深いシェルターに逃げのびれた人間はしばらく長い間、地下での生活を強いられた。ウイルスの根絶と核で汚れた地上が浄化されるのを待つために……」
しかしこの状況や戦争はある時期よりすでに予想されていたものでもある。
シェルターの役割はただ避難するための場所というよりも、割り切りをもったアルファの平和科学者たちが英知を集め、生きていくために備えた施設になっていた。
「スモールヌクリア(小さな核)を開発した先人に感謝しないとな」
その頃には核戦争のために太陽光と同じ光を生み出すスモールヌクリアなるものを開発することができていた。
そしてノアの箱舟ならぬ、ノアの地下施設なるものが開発される。そこは人間が生き延びていくのに必要なありとあらゆる植物、生物がスモールヌクリアと共に備えられたものだった。
皮肉なことにウィルスは核と共に戦争に用いられた。
スモールヌクリアは自家発電だけにとどまらず、開戦の火蓋が切られ、燦々たるありさまとなった地上から放出された害になる放射能を取り込み、それを太陽エネルギーと同じように活用することができた。
そのエネルギーで作物は育ち、家畜も育てられたため、人間はそこで過ごすことができた。
地下の住人の生活のために最大限に生かせた施設は、科学者たちの研究成果を存分に発揮するものとなった。
「結局俺たちが自分自身を守ったんだ、そうだろ? 琉」
俺は腕を組みながら見上げると、琉は柔らかく微笑み頷いた。
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