第31話 かくれんぼ(切実)

【暮葉side】



 休日になり、私はショッピングモールで待ち合わせをしていた。


「──でさぁ、そいつが超音痴で、カラオケルームが地獄かよって感じになって」

「そうなんですね、あはは」


 先に榊くんと私が到着したので、もう一人の到着を待っている状態。

 誰が来るのか聞いていないけど、榊くんが喋っているので、尋ねるタイミングが絶妙にない。

 一方的に話しかけられるような不愉快さはないのに、間が途切れないという、不思議な感覚だ。陽キャのコミュ力恐ろしや……。


「あ、ごめーん。おまたせー」

「お、やっと来た」


 榊くんの視線を辿ると、現れたのは……目黒さん!?


「えっ、プレゼント探してるのって、目黒さんなの!?」

「そうだよー、この前は勉強を教えてもらったし、そのお礼にねー」


 目黒さんは意味ありげに、自分の唇を軽く撫でた。

 ぐ、ぐぬぬぬぬぬ……。

 …………うわあああああん!


 と、公衆の面前で泣き出すのもはばかられるので、なんとかこらえる私。


 なんでわざわざキスのこと蒸し返してくるの!? ねぇ!?


「なんだ、二人とも面識あるんだな」

「そうだねー、因縁の関係って感じー?」

「……ですね」

「ハハッ、なんだそれ。……んじゃ、パパっとプレゼント探しに行きますか」


 3人で横並びになって歩いて行く。

 なんとなく目黒さんの横を歩く気にはなれず、必然的に榊くんを真ん中にする並びとなった。


「そういえばさー、西條って榊に対しては敬語だよね。なんで?」

「えっ、なんでって言われても……なんでだろ?」


 うーん、多分だけど無意識に壁みたいなものを感じてるからだと思う。

 榊くんって有名人みたいだし、気軽に話せない雰囲気がある。

 それを言うならかい君も有名人なんだけど、幼馴染みだから親しくできる訳で……。


「オレはどっちでも良いよ。同級生だからタメが普通だけど、敬語が楽ならそれでも」

「あ……じゃあ、敬語はやめよう、かな」


 どっちでも良いって言われてるけど、多分おかしいと思われてるよね?

 敬語を使う私より、タメ口を使う私の方が求められてる気がするから。


「あらら、よかったねぇ、榊?」

「なんだよ、オレはどっちでも良いっつったろ」


 榊くんはタメ口で話して欲しかったってことなのかな。

 ん? それって……いやいや、流石にそんな訳ないよね。


「あ、着いたよ」


 目黒さんが指さしたのは、なんだかお洒落な雑貨屋さん。

 どれくらいお洒落かというと、こんな所に陰キャが入って良いのかと躊躇するくらい。

 そう、私はとても躊躇しているのです、はい。


「ん、暮葉ちゃん入らないの?」

「あ、え、はい。入ります……」


 榊くんに呼ばれて意識を取り戻し、ようやく入店する決意を決め──


「海賀はん、誕プレくらい自分で選んだらええのに」

「馬鹿野郎、暮葉へのサプライズは絶対に成功させたいんだよ」


 視界の端に、かい君がいた! ついでに仲のいい男子も!


「ささ二人とも、入りましょう入りましょう」

「西條? どうしたの?」


 目黒さんが怪訝な顔をしているが関係ない。

 とりあえず二人の背中を押して店の奥へ。


 ……ふぅ、なんとか見つかる前に店内へ逃げ込むことができた。

 かい君、なんか私の誕生日プレゼントを買いに来てたみたいだけど、めっちゃ聞こえちゃったな……。

 しかもサプライズのつもりらしい。

 この状態で鉢合わせたら本当に気まずいので、絶対に見つからないようにしようと心に決める私だった。


 しばらく二人から「どうしたの?」みたいな質問が飛んできたけど、すべて適当に流す。

 控えめに笑うことで、回答せずに会話を終わらせるという、陰キャ戦法である。


「……あっ、これ可愛い~」


 よし、目黒さんの意識が商品棚のアロマに向いた。これで私の奇行に関する話題は終わり!


「ねぇ、これ可愛いよね?」

「あっ、そうだね。可愛い、と思う」


 知ってる知ってる、こういう時はとりあえず思考停止で共感しとけばいいって、偉い人が言ってた。

 ……まぁ冗談はさておき、アロマについてはよく分からないけど、私はなんとなく憧れがある。

 モデルさんとかが使ってるイメージあるし、部屋に置いてあったらなんか凄そう(小学生並の感想)


「あぁ、ラベンダーか。万人受けするし、良いんじゃねぇか?」

「榊くんも、アロマ使うの?」

「まぁ、たまにはな。でも目黒の方が詳しいと思うぞ」

「そうそう、私は毎日焚いてるよー」


 やっぱり女子力高い人は違うな……。

 やはり、かい君を攻略するには最低限の女子力を身につけなければ。


「目黒さん、私アロマのこと全然分からないんだけど、少しだけ教えてくれないかな……?」

「良いよー、やっぱり最初にオススメしたいのは──」


 ──その時。私の第六感が何かを感じ取った。


「ええか、女子に渡すならインパクトのあるものや。普通の物をあげても、その時は喜んでもらえたとして、一か月後に忘れられるのが関の山やで」

「じゃあ刀矢は、何を渡せば良いと思うんだ?」

「ズバリ『男子が興味なさそうなもの』やな。極端な例を挙げると『コスメ』とかがそれにあたる。女子の好みに理解があるってアピールになるんやで」

「なるほどな。それじゃあ早速……」

「待て待て、初心者がこれをやるとイタいから、僕と相談しながら決めた方が──」


 ……この声、絶対かい君だよね。あと取り巻きのパリピさん。

 しかも背中側の棚を挟んで向こう側にいる気がするんですけど!


「それでー、オーガニックの方がちょっと高いけど、こだわるならこっちの方が良いかなーみたいな……うわっ!」

「暮葉ちゃん? え、っちょ、どうしたの、急に服を引っ張って……?」

「ごめん目黒さん、やっぱりアロマのことは後で!」


 泣く泣くその場を離れる私。

 今すぐ逃げないと、かい君に見つかる可能性が500パーセント。

 奇行に奇行を重ねる展開になってしまったが、致し方無い。


 ……かい君、コスメくれるのかなぁ。

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