第29話 もしかして

【暮葉side】



 佐保子先生の話を聞いてから、私は少しずつ、かい君と距離を縮める努力をした。

 正直、最初の一週間はかなりぎこちない接し方だったけれど、それも時間が解決してくれて──。


「カイ君、ゴキゲンヨウ」

「お、おう……?」


 ごめんなさい、全然解決してませんでした。

 かい君の方は自然に接してくれてるけど、私はやっぱりショックが抜けきっていないみたい。

 だから、話すことはできても前みたいに会話が弾むことはなくて。

 ってか、御機嫌ようって言う人、この時代にいるの?


 そんなこんなで、なかなか上手くいかない私。

 かい君とは、なんとか元の関係に戻りたいんだけどな……。


「暮葉ちゃん」


 トボトボ廊下を歩いていたら、声をかけられた。


「……えっと、ど、どちら様ですか?」

「いやぁ、それは手厳しいな。オレだよ、分かるっしょ?」


 そんな、オレオレ詐欺みたいなこと言われても……。

 話しかけてきた男子は、髪が明るい茶髪で、制服シャツも第二ボタンまであけている。ありていに言ってしまえば「チャラそう」な印象だった。


「陸上部のさかきだよ、さかき有朋ありとも

「あー……」


 小耳にはさんだことはある。

 なんでも陸上で県大会出場経験があるらしく、そのルックスの良さからファンクラブまで存在していると、もっぱら噂の男子だ。

 陽キャ男子。故に苦手。


 ファンクラブに関しては、かい君の方がメンバーは多いけど、それと並んで二大巨頭って感じかな。


「やっぱ聞いたことはあるよねぇ。オレ、表彰式にも出てたし」

「そう、でしたっけ……?」


 まぁでも、県大会に行ったのであれば、普通に考えて表彰されるか。

 ただ、なんというか、妙にナルシストっぽい喋り方をするのが気になる。


「そんなことはいいんだけど、ちょっと暮葉ちゃんに相談したいことがあってさ」

「相談、ですか?」

「そうそう。今度オレのダチが神戸にプレゼントを渡したいって言ってるんだけど? 神戸の喜びそうなものが分からないから聞いて来いって、オレ、頼まれちゃってさ」

「は、はぁ……」

「だから、幼馴染みの暮葉ちゃんなら何か知ってるかなぁ~って」


 なるほど。一瞬、私をナンパしようとしてるのかと思って身構えたけど、別にそういう意図はないらしい。

 ちょっとだけ安心。


「うーん、かい君って意外とロマンチストだから……お洒落なグッズを渡すと喜ぶかも」

「そっかぁ、あいつにロマンチックなものとか分かんのかなぁ」


 少し唸った後、榊君は思いついたようにこう言った。


「あっ、そうじゃん。暮葉ちゃんに来てもらえばいいのか」

「えっ?」

「いや、あいつの買い物に付き合ってやってくれよ。じゃないと変なプレゼントを買いかねないからさぁ」

「そ……そんなにセンスがない人なんですか」


 それくらいは自分で選ばないと、プレゼントの意味がない気がするけど……。


「頼むよ。仲介役としてオレも参加するからさ~」


 それが一体、なんの交渉材料になると思ってるんだろう……。


 でも、何度もお願いされると断りにくいなぁ。

 私って、やっぱり押しに弱いタイプなのかもしれない。


「まぁ、手伝い、ってことなら……」

「マジ!? 超助かる!」


 大袈裟じゃないかってくらいの身振りをする榊君。

 なんか、見てるだけで落ち着かない……。


 「じゃあLINE交換しよ!」と向こうがスマホを取り出してきたので、私も思わずスマホを取り出して、連絡先を交換した。

 ……なんかこの人、連絡先を聞き出すの慣れてない?


 再び警戒レベルを引き上げる私。

 ただ、頼まれた「買い物」には、彼ともう一人が同伴するらしい。

 そう考えると、下心があって近づいてきた線は薄いのかもしれない。


 まぁどちらにしろ、陽キャ一族には一定の警戒心を持っているけどね!

 陰キャ女子なので!


「じゃ、また連絡するわ!」


 しゅたっ、と手刀を切って、榊君はこの場を立ち去った。

 いちいちカッコつけてるよね、この人……。佐保子先生みたいな女子は、こういう人がタイプなのかもしれないけど。ちょっと私には分からない。


「あっ、暮葉」

「ん、んえっ! かい君」


 かい君が急に後ろから現れて、驚いてしまった。


「暮葉って、榊と仲良かったっけ?」

「エット、ソノ、さ、さっき話しかけられたのが初めて、だけど……?」

「……」


 なんとか返事をした私、偉いぞ!

 でも、それに対する回答は聞こえない。

 かい君は、廊下を歩く榊君の背中を見つめて、何やら考えている様子だ。


「どうかしたの……?」

「……いや、なんでもない」


 意味深な間をおいて、かい君は教室へと入っていった。

 なんだろう、かい君の態度がいつもと違ったような。


 ……あ! もしかして、妬いてた?

 私が他の男子と話してたから、嫉妬したのかな!?


 私はそんな憶測を膨らませて、一人で舞い上がっているのであった。

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