第26話 誓い
【暮葉side】
前回までのあらすじ。
先輩が変態ではなくド変態だった。
「先輩……ペットボトルの飲み口を舐めるの趣味なんですか……?」
「えっ、あーっと……」
先輩はおもむろにかい君の方へ視線をやると、
「海賀くんもしてたから問題ないと思う」
「やってねぇよ!?」
…………まじか。
この人たち……まじか。
「暮葉、勘違いするなよ? 誤解だからな?」
「……いいもん」
「え?」
「かい君が例え、どんな変態さんでも、私は受け入れるから……」
なぜか目から汗が出てきた。あ、これは涙か。
なんで泣いてるんだろ私……ははは。
「西條さん、これハンカチ……」
「あなたは受け入れません!」
先輩が差し出してくれたハンカチを丁重にお断りして、袖で涙を拭う。
…………申し訳ないことをしちゃったかな。
いやいや、先輩は私の恋敵だから! 容赦なんてしないから!
気を確かに持って、ぐっと胸を張る。
過ぎたことを嘆いてもしょうがない。次だ次!
もはや投げやりに近い思考を始める私。
「かい君!」
「は、はい!?」
音量調整をミスって大声で呼びかけてしまった。
陰キャ女子かよ……いや、陰キャ女子だよ……。
「次は、観覧車行こう?」
「お、おう。いいけど……?」
もう駆け引きなんてしている場合じゃない。
もっと、大胆に攻めていかなきゃ。そうでもしないと、かい君の心は奪えない。
観覧車で、かい君をオトす!
私はそう胸に誓った。
◇ ◇ ◇
【万莉乃side】
私は観覧車に乗っている。
……一人で。
夢の溢れる遊園地に来て、なぜこんな惨めな状況を甘んじて受け入れているかと言えば。
海賀くんと西條さんが、二人で観覧車に乗ることになったからだ。
……西條さん、羨ましい。
「はぁ……」
溜息が出てしまう。
一個前のゴンドラに乗った二人は、今頃いちゃこらしてるんだろう。
…………。
気になってしまって、窓から前のゴンドラを窺う。
見え……そうで、見えない。もっと屈んだら見えるかな?
「むむむむ……」
かなり無理な体勢になったけど、やはり全貌を捉えることはできなかった。
……観覧車の設計をした人は、天才なのかもしれない。プライベートな空間を保証できるようにデザインしてあるというわけだ。
「……なにやってるんだろ、私」
普段の私らしからぬ行動を自覚し、諦めて座ることにした。
いつもの私なら思ったことを態度には出さないのに……。人が見てないから、少しだけ表に出ちゃったのかも。
「はぁ……」
やっぱり一人で観覧車に乗るというのは、悲しいものがある。
海賀くんと乗れたら最高だけど、せめて誰かと話すくらいはしたかった。
やることが無いので、窓際で頬杖をついて外を眺めてみる。
遊園地の全体が見渡せて、絶景だ。
「わー、すごい……」
建物が模型くらいに小さくなっていて、人はそれ以上に小さい。
なるほど、マンションの高層階が人気なのも頷ける。こんな景色を毎日見たいという人は多いはずだ。
──いい景色だと思わない? 海賀くん
隣に彼がいたら、そう言っていただろう。
でもそれは「もしも」の域を出なくて、そんな日はきっと来ない。
いつか海賀くんが西條さんの隣で笑っていれば、私はそれで満足なのだ。
あれだけ傷ついた海賀くんが、幸せになれるのであれば、それで……。
「私も乙女だねぇ」
勝手に感傷に浸っている自分は、少しイタいのかもしれない。そう思うと笑える気もしてきた。
今日のプランは私が考えてきたものだ。
もし海賀くんを西條さんに取られたくないのなら、そもそもこんな計画立てなければ良い。
それでも実行に移したということは……もしかして私、お人好しだったりする?
海賀くんのために、必死で言い訳を考えてあげたりさ? ……まぁ、焦って「舐めてただけ」とか変なこと言っちゃったけど。
「……
どうかしてる。
全然言い訳になってないじゃん。
ほんと私、
「うん、おかしいね……」
目の奥がじんわりと濡れてきて、思わず上を向く。
おかしい。
今日の計画も、私が自分からやったことなのに。
後悔なんてしていないはずなのに。
なんで、こんなに胸が苦しくなるんだろう……。
さっき西條さんに貸そうと思っていたハンカチを取り出して、目にそっと当てた。
──でも、良かったなぁ。
彼の前ではいつも笑っていると決めたから。
海賀くんの前で泣かずにすんで、良かったなぁ……。
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