第24話 思春期です

【海賀side】



 なぜか、暮葉がやたらとボディタッチしてくる。


 最初は袖をくいくいと引っ張るくらいで、俺も何とかクールキャラを維持できていたのだが……。


 二人乗り馬車に座った瞬間、腕を組んできた。

 そして俺の腕には、ふにっと柔らかい感触が。でもこれが何なのか考えてはいけない。絶対に。

 考えたら終わる。特に下半身的な意味で。


「かい君……?」


 うるうるした目で見つめるのは、やめてくれ! 降参だ!

 可愛いなぁ、もう!


 ……落ち着け、こんな時は周りの風景を見て気を紛らわせるんだ。


 上を見上げれば、円形の天井には星空が描かれている。そこには煌びやかなランプがたくさん吊るされていた。

 視線を下ろしていくと、メリーゴーランドの中央にある立派な柱が目に留まる。その柱には金色の塗料が使われていて、光をキラキラと反射させているのがなんとも幻想的だ。

 そして何と言っても暮葉の笑顔。はい可愛い!


 …………。

 駄目だ、どうやっても暮葉が思考に入ってきてしまう……。


「かい君、そろそろ動き出すって。楽しみだね!」

「お、おお。そうだな」


 ──うっ……暮葉を直視できない。

 普段の暮葉ですら可愛いのに、今日はそれ以上の「何か」が加わった気がする。

 なんというか……積極的になったような。


 言い換えると、

 ……自意識過剰か?

 俺が本気を出さなければ惚れさせられない暮葉が、そう簡単にオチるとは思えないしな……うぅむ……。


「わっ、動いたよ! ほら、回ってる!」


 無邪気にはしゃぐ暮葉。

 ……いや! これは明らかにわざとだ!


 今まで数多の女子からアピールを受けてきた俺だ。この一点にかけては自信がある。

 暮葉の目線、息遣い、ボディタッチの仕方しかた

 これら全てが、計算されている動きに感じた。

 ちょうど……そうだな、目黒に似た動作が多いか……? なぜかは知らんが。


「ねぇ、楽しいね! かい君!」

「っ! あぁ、そうだな……っ!」


 いかん! アピールする仕草を暮葉がしたら、破壊力が凄すぎる!

 まさに「鬼に金棒」、「暮葉にあざとい仕草」だ。

 体感の心拍数が999回/分くらいになってる。俺、死んでるかも。


 不意に、暮葉が手をつないできた。指も絡ませてくる、恋人つなぎ。

 体感心拍数は999回/から999回/になった。死んだ。


 しかも、指を絡ませようと暮葉が姿勢を変えたことで、おっぱ……じゃない、柔らかい何かが更に押し付けられて──


「……っ、ちょ、まっ!」

「んー? かい君、どうしたの?」


 上目遣いやめて! 首筋に吐息かけないで!


 ちょ……あ、一旦、前屈みになります。理由は聞かないでください……。

 男の子はしょうがないんです。生理現象なんです。

 暮葉さんのアピール、ちょっと刺激が強すぎたんです。


「? なんで前傾姿勢になってるの……?」


 理由は聞くなって言ってるだろっ……! 必死に隠してんだよ!


「…………あっ、えっと、あっ」


 暮葉が何かを察したような声をあげて、俺から離れた。

 不器用に指いじりしながら、少し恥ずかしそうな顔でうつむく暮葉。

 しかし、時おり興味ありげにチラチラとこちらに視線を送ってくる。

 その視線の先は……うん。俺はもう、死にたいよ。


「あの、かい君……」


 だからなんで耳元で囁くんだよ……! 嫌じゃないけど、というかやぶさかじゃないけど、そういうの良くないと思うぞ、俺!


「……気づいちゃった」


 これ以上、俺をはずかしめないでくれええええええええええええええ!


 俺はガクンと項垂れた。


          ◇ ◇ ◇


【暮葉side】



 かい君に密着する私。

 手まで繋いじゃった……!


 ふふっ、これでドキドキせざるを得ないでしょ、かい君!

 ちなみに私も心臓やばいよ! 爆発寸前だよ!


 ……諸刃もろはつるぎだね、これ。


「……っ、ちょ、まっ!」

「んー? かい君、どうしたの?」


 私は余裕そうな素振りで返事をする。

 本当は全然余裕ないけど、こうする必要があるのだ。

 というのも、かい君には「年上好き疑惑」があるから。


 先輩と付き合ってるということは……やはりかれたんじゃないか。

 だから、同い年だけどお姉さんっぽい振る舞いを心がけていこうと思っている。

 そうすれば、かい君の彼女になることも夢ではない……にへへ。


 ──と。

 なんか、かい君の挙動がおかしい……?


「? なんで前傾姿勢になってるの……?」


 私と離れようとしてるのかな?

 でも、さっきまで嫌がる様子もなかったのに。どうして急に……?


 ……私は気づいてしまった。

 かい君の腕に、胸を押し当ててしまっていることに。


「…………あっ、えっと、あっ」


 すぐに抱きしめていた腕を離し、かい君から距離をとる。

 ……恥ずかしい。こんなことを意気揚々としていたなんて、ただの痴女だ……。

 かい君、私のこと変態だと思ってないかな……ちらっ、ちらっ。

 何度か横目に確認してみたけど、かい君は前屈みで俯いたまま。

 表情が読み取れないよぉ……。


 しょうがない、ちょっと探りを入れてみよう。


「あの、かい君……」


 胸がどうこうとか、大声でいう必要もないので、小声で耳打ちする。


 反応は…………無し。


 ……これ、気付いてるのかな!? 胸を押し当てるような痴女だと思って、幻滅してるのかな!?


 ねぇ、かい君。もしかして、胸が当たってるの──


「──気づいちゃった?」


 かい君は、ガクンと首を振り下ろした。

 首を縦に振った……つまり、肯定したということ。


 …………。

 ……………………。


 かい君信じてえええええ! 私は痴女じゃないのおおおおおおおおお!

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