第22話 この人が彼女です

【海賀side】



 電車に揺られて数駅。俺たちは某有名テーマパークに来ていた。


「わわわ、すごい人の数……」


 入場口前の広場に到着するなり、暮葉が声をあげた。

 ……確かに人が多いな。日曜日だし、家族連れも結構いるみたいだ。


『ガガガッ!』


「……あれ、工事中なのかな」

「ん、万莉乃さん知らないんですか? なんか新しいアトラクションを作ってるって話題になってましたよ」


『ガガガッ!』


 ガガガガうるさいが、仕方ない。

 どうせならアトラクション完成後に来たかった気もするが、暮葉と来られたのならそれでいい。


「へーそうなんだ。じゃあ海賀くん、チケットをもう一枚買ってきて」

「興味なさそうですね……」


 まぁ万莉乃さんは付き添いの形で参加しただけだから、元から興味はなかったのかもしれない。

 だとしたら無理に参加させてしまって申し訳ないな……。こんど別の形でお礼しないと。


 ……そのことはとりあえず置いといて。


 ペアチケットは読んで字のごとく、二人用の入場券だ。

 今この場には三人いるから、もう一枚必要になる。

 ここは流石に、俺が買うべきだろう。じゃあ割り勘で、なんて言うほど俺は傲慢じゃない。


 とりあえず暮葉のことは万莉乃さんに任せて、俺は一人でチケット売り場に向かった。


        ◇ ◇ ◇


【暮葉side】



「……ところで先輩、かい君とは知り合いなんですか?」


 チケット売り場に向かったかい君の後ろ姿を眺めつつ、私は川西先輩に尋ねる。


「ふっふっふ。あんなとこやこんなとこまで知り合った仲だよ?」

「!?!?」

「冗談だって」


 びっくりした……。ほっと胸をなでおろす私。


「心配しなくてもね、海賀くんはちゃんと西條さんのことを考えてるよ」

「え……そうなん、ですか?」

「そうだよ? この前なんてカッコつけて、こんなこと言ってた」


 川西先輩は一呼吸おいて、かい君のセリフを再現する。


「俺には暮葉 『ガガガッ!』 見えない」

「かい君がそんなことを……って、え?」


 俺には暮葉がががっ見えない

 ↓

 俺には暮葉が見えない

 ↓

 暮葉はアウトオブ眼中


 噓おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?


「だからね、安心して大丈夫だよ」

「いやいやいや! 安心できませんよッ!」

「なんで? あ、ドキドキしちゃうって意味?」

「そりゃ心臓バクバクいってますよ! え、そんなことあります!?」

「西條さんも、夢見心地だよね。海賀くんがこんなこと言ってるなんて聞いたら」

「いや、夢であってよ! 夢であってください!」

「でもね、これ現実だから」


 な、なんだこの先輩! ニコニコしながら残虐なこと言いやがって!

 私を煽って楽しいですか!? ねぇ!? 絶望の淵に追いやって楽しいですか!?


「なんでわざわざそんなこと言うんですか!」

「……あ、そっか。本人の口から聞きたかったよね。ごめん」

「聞きたかないですよ!」

「……え、じゃあどっちが良かったの?」

「どっちも良くない!」


 かい君が脈ナシだったとは……ダメージが大きすぎる。

 うぅ……助けて~、佐保子先生~!


「おまたせ、チケット買えたよ」


 なにのほほんとした顔で戻ってきたんだこいつ! 私の純情を返せ!


「かい君の……すけこましいいいいいっっっっ!」


 腹の底から叫んだ。

 近くの通行人がうわぁって目をしながら通り過ぎるし、家族連れだった場合はお母さんが子どもの目を塞いで「見ちゃいけません」と言っている。

 でも関係ない! 腹の虫が収まらない!


「く、暮葉? どうした?」

「どうしたもこうしたもあるかああああああああ! このやろ、このやろ!」


 私はありったけの力でかい君のお腹を殴る。

 でも、硬い腹筋でガードされてる上に私が非力だから、全然効果がない。

 ちくしょー! カッコイイ体しやがって──じゃなかった!


「西條さん……? なんかいつものイメージと違うけど……?」

「その元凶は誰だと思ってるんですか!」


 この先輩、いよいよ信用ならない……!

 部活では大人しくしてたけど、こんな毒舌の持ち主だったとは!


「暮葉、なんか勘違いしてるんじゃないか? とりあえず中に入って、落ち着いて話し合おう。……な?」


 ぐぬぬ……。

 かい君ね、そうやって見つめれば私が首を縦に振ると思ってるんじゃ──


「……分かった」


 私チョロすぎたああああああああああ!

 ……でも冷静に考えて、万が一、私の勘違いだったら笑えない。言い分を聞くくらいのうつわは持ってないと駄目だよね、うん。


 そんなこんなで、ぎこちなく入場ゲートを通る私たち。

 周りの視線に突き刺されながら、近くにある休憩スペースに向かった。


「……色々と前提から話さないとな。たぶん説明が足りてないから変な感じになってるんだと思うし」


 川西先輩を真ん中にして、私たちは空いていたベンチに腰掛けた。

 かい君はここで弁明を始めるつもりらしい。


 よし、落ち着いて聞こう。

 まだ、私の勘違いだという望みも絶えてはいないのだから。


「まず、万莉乃さんと俺の関係を正直に話す」


 かい君はすーっと息をすった。

 ……なに、なにを言い出すつもりなの?


「万莉乃さん 『ガガガッ』 俺の 『ガッ』 彼女だ」


 万莉乃さんがががっ俺のがっ彼女だ

 ↓

 万莉乃さんが俺の、かっ、彼女だ(照れ)


「いやあああああああああああああああああああああああっ!?」


 周囲に私の悲鳴がこだました。




ーーーーーーーー


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