第21話 頼れる先輩
帰宅した俺は、すぐ刀矢に連絡を取った。
「刀矢、二択責めが上手くいかなかった時はどうすればいいんだ……」
『あ、海賀はん? 僕、今からバイトやねん』
「バイトなんてしなくてもなんとかならないか?」
『なんともならんな。誰かさんにペアチケットを買ったせいで』
「そう言えばそうじゃん! すまん、代金は今度返す」
『それはええんやけど、今すぐ稼がんとホンマに財布が空やねん。そっちでなんとかしてや』
「そんな──」
──ブツっ。通話が切れた。
……うん、これは刀矢に頼りっぱなしの俺が悪いな。
とりあえず窓から暮葉の家を眺める。やはり部屋にはカーテンがかかったままだ。なんか音楽が聞こえる気がするが……これは気のせいだろう。
まずはどうにかして、話だけでも聞いてもらわなければ。
俺は頭をフル回転させる。
考えろ、考えろ──
* * *
「──あ、もしもし。万莉乃さん?」
結局人に頼ることしか出来ないのか俺は……。
悲しくなるものの、今は手段を選んでいる場合じゃない。
『ん? ヨリを戻したいって? もちろん良いよ』
「あ、ごめんなさい暮葉の件で相談しただけです……」
『なるほど、私は都合の良い女ってことね』
物凄い罪悪感が……。
「そういうつもりじゃないんですけど……でも、俺には頼れる人が万莉乃さんしかいないんです」
『……そう言われると弱いの、知ってて言ってるでしょ』
え、いや、全然意識してないけど……。
それでも万莉乃さんは、くすぐったそうに返事をしてきた。
『分かった。お姉さんが何でも聞いてあげる』
「……本当にありがとうございます。実はかくかくしかじかで──」
暮葉を遊園地デートに誘おうとしたら無視されたこと、どうにかして暮葉に謝罪を聞いてほしいことなどを、簡潔に伝える。
『……そんなの簡単じゃん』
「え?」
簡単。万莉乃さんは今、そう言ったのか?
『良いよ、私に任せて。日曜日の朝10時に駅前来れる?』
「あ、はい。行けますけど……」
『来てもらえれば、そこで万事解決するから。じゃあね──』
──ブツっ。切られた。
………………え?
◇ ◇ ◇
【暮葉side】
かい君が今さら何を言ったって、聞いてあげないんだから。
4日も口を利かないでいたら、私だって……私だってね……。
自分の部屋に入るなりスマホを操作し、ボカロ曲『恋愛裁判』を爆音でループ再生させる。これで気を紛らわせよう。音が大きいから、かい君にまで聞こえるかもしれないけど気にしない。というか、むしろ聞こえてしまえ!
……そうして暫くいじけていると、急に曲がストップした。
「あれ、電話……?」
誰からだろう。特に心当たりはないけど……。
スマホの画面を見ると、部活の先輩からだった。
「……? あまり話したことない先輩だ……」
* * *
日曜日。
例の先輩に「できる限りのお洒落をして来て」と言われたので、その通りにしてきたけど……。
時刻は10時前。駅前広場に到着した私は先輩の姿を探す。
「西條さ~ん」
「あ、川西先輩」
銅像の前で手を振る先輩を見つけて、駆け寄っていく。
「おはよう、西條さん。呼び出しちゃってごめんね?」
「いえ、大丈夫ですけど……」
──と。
「暮葉……その、おはよう」
「あ、かい君! おは──」
待て待て私、なに喜んでるんだ。
ここは怒ってるアピールを……っていうか、本当に怒ってるんだけどね!
「………………お、おはよう」
そうよ私、不機嫌な感じを全面に出していきなさい!
かい君がなぜここに居るのかは不明だけど、その姿勢を崩してはならないの!
「西條さん? なんか複雑そうな顔してるけど大丈夫?」
「ひぇっ? べべ、別にそんなことないですよ!」
「でも、眉間にしわが寄ってるのに頬が緩んでるよ?」
どうやら怒った顔になりきれてなかったらしい。くっ、私としたことが……。
「──暮葉、ごめん」
かい君が、頭を下げてきた。
「この前のことを取り繕うつもりはない。でもあれは事故みたいなもので、目黒と俺は付き合ってないし、付き合うつもりもないんだ。それは信じて欲しい」
……なによ。
私には関係ないよね? 彼女でもあるまいし、私に謝る必要なんてないよね?
……でも。
「うぅ……かい君のばかぁ……」
私は感極まって、かい君の胸に顔を埋めた。
泣きそうだったけど、なんとか堪えてる。少しだけ化粧も頑張ったし、メイクが崩れたら勿体ない。折角、かい君に見てもらえるんだから……!
「……ごめんな」
かい君はギュッと抱きしめてくれた。
これで3回目だけど、まだ慣れないや。心臓はバクバクいってるし、意識も飛びそうになってる。
「ごめんな」
「もう……良いってば」
「本当に、ごめん」
「…………じゃあ、また私と、いつも通りに接してくれる?」
「もちろんだ」
それを聞いて……私は思わずにへらと笑ってしまった。
「良かったぁ……」
かい君の腕の中から頭だけ抜け出して、私はそう言った。
……あれ? かい君、顔が赤くなってる……?
いや、気のせいか。かい君はいつでもクールだし。
「はいはい、お二人さん。そろそろ電車に乗りますよ」
川西先輩が、真顔で手を鳴らした。
……あっ、先輩の前でこんな姿を晒すとは! 一生の不覚っ……。
ヤバい、これは恥ずかしい。
「……って、電車、ですか?」
かい君が素っ頓狂な声で先輩に尋ねる。
「そうだよ。海賀くんが遊園地デートをしたいって言ったんでしょ」
「……あ、そっか」
え? ん? どういうこと?
「落ち着いて西條さん。今から3人で、遊園地にいくの。今日、予定は無いんでしょ?」
「無い、ですけど……?」
「それじゃ、レッツゴー」
川西先輩に引きずられて、かい君と私は駅のホームに向かった。
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