第20話 見えない

「私をこっぴどく振ったことに自責の念を持ち続けている海賀くん」

「わざわざそんな呼び方する必要ありました?」


 万莉乃さんはニヤリと笑って続ける。


「私のこと、?」

「俺、視力は1.0ありますけど」

「そうじゃなくて」


 そう言われて、俺は理解した。


「……。少なくとも他の人よりは

「そっか。なら私にもまだ希望があると?」

「でも、やっぱり


 それを聞いた万莉乃さんは満足げに頷いて、


「じゃあ、それを幼馴染みちゃんに言わないとね」

「……?」

「理由はどうであれ、目黒さんのことが少し。でも、幼馴染みちゃんにまさる人はいない。そう伝えるしかないでしょ?」


 ……当たり前のことのはずだ。

 でもそれを忘れていた俺は、やはり馬鹿なのかもしれない。

 気付かせてくれた万莉乃さんには、感謝だ。


「ありがと、元カノさん」

「どういたしまして、元カレさん」


          * * *


 なんて、良い感じにまとまったつもりになっていた。


「どういうタイミングで話しかければ良いんだよ……」


 気が付けば金曜日。火曜日から暮葉は学校に復帰していたが、今の今まで一度も言葉を交わしていない。


「海賀はん? 最近、独り言多いで?」

「文句あるか?」

「シンプルにうるさい」

「……それはすまん」


 もっともなお𠮟りを受けてしまった。


「ただ、海賀はんが悩んでるのも分かるからな。これ持ってきたで」


 刀矢は猫型ロボットのような動きで、それを取り出す。


「てんてけてーん⤴ ゆーえんちのぺあちけっとー」

「ドラえもんかよ」


 せっかく伏せていたのに、おもきし言ってしまった……。


「これを口実に、西條をデートに連れだすんや。それさえできれば、あとは何とかなるやろ?」

「……誘う段階で断られたら?」

「海賀はん学んだやろ、デートを断らせないモテテク。二択を押し付けるんや」

「なるほど、『デッド・オア・アライブ?』って言えばいいのか」

「なんでやねん」

「『ビーフ・オア・チキン?』」

「海賀はんがチキンなんとちゃうんか?」


 どうも俺は、軽口を叩けるほどには復活していたらしい。

 これなら暮葉を誘うこともできるだろう。


 ──程なくして放課後になった。

 俺は校門に先回りして、暮葉を待つことにする……と。


 待って数分も経たないうちに、暮葉が現れた。


「暮葉……!」

「……」

「話したいことがあってさ」

「……」

「今度、一緒に遊園地に行かないか? たまたまペアチケットが手に入って」

「……」


 くっ、やっぱり無視されるよな……。

 しかし、俺には「二択責め」という奥義が残されている!


「土曜日と日曜日なら、どっちが都合付く?」

「……(ぷいっ)」


 ……あかん、俺、詰んだわ。

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