第3話 お嬢様、迎えに行きます
【海賀side 】
保健室に着いた。俺は扉を3回ノックする。
「はいはーい!」
堀先生の明るい声が飛んできて、少し間があった後、ドアが開いた。
「高2A組の
「あぁ、海賀くんね。ここに来る勇気はあったんだ」
「それはどういう……?」
「行動に起こせないチキンだと思ってた」
「?」
「まぁ要するに、『四つ裂きにされても文句言えないわよ』ってこと」
バタン、と閉め出されてしまった。
……俺、なんか悪いことしたか?
どうしたものかと立ち尽くしていると、部屋の中から「チキン」と聞こえてきた。第三者にまで悪口を言うとは、解せぬ。
しょうがないのでトボトボと教室に戻る。
自分の席(廊下側、最後列)に着くなり、目の前の男子に絡まれた。
「おうおう、どうしたよ。お姫様ん所に行ってたんとちゃうんか?」
「うっさいな
「いやはや、海賀は遅れてはるわ。時代は関西弁男子や。最近は方言萌えするっちゅー女子が増えてるらしいで」
「どこ情報だよ」
その問いに答えることなく、刀矢はご自慢の茶髪をふぁさっとかきあげた。お調子者ではあるものの、顔は悪くない。
俺がクール系男子で、刀矢がパリピ男子。対照的な俺らだが、割と波長が合うので仲良くしている。
「僕はモテることに対して努力を惜しまん男やからな。……せや、ダチのよしみで僕のモテテクを伝授してもええんやで?」
「いや、俺は
「はっはっは! そういうこと言うとは、海賀。お前さては女にいつか刺されるタイプやな?」
嬉しそうな表情で怖いこと言うなよ。
「んで、話戻すんやけどさ。西條に会えんかったって?」
「そうなんだよ。なぜか保健室の先生に入室拒否された上に『四つ裂きにするぞ』って
「……保健室の先生って、女の人やんな? まさか包丁持ってたん……?」
「刺されてねぇよ。『いつか刺されるタイプ』の伏線回収しようとすな」
「はっはっは!」と、またもや高笑いする刀矢。こいつ、いつでもテンション高いからどこまでがジョークなのか微妙に分かりづらい。
「バスケの時、西條が来た途端に超張り切ってたんやけどなぁ。『キモい』言われた挙げ句、お見舞いに行ったら顔も見れんとは……
「同情するなら解決策をくれ。どうすりゃ良いんだ」
「おっと? それはつまり『西條に振り向いてもらうにはどうしたら良いか教えてください刀矢様』ってことでええか? 今さらになって僕にモテテクを教えてほしいと?」
「…………」
「いやぁ海賀さん、それはダサいで──たんまたんまシャーペンの先をこっち向けんといて
「思ったけど、俺より先に刀矢の方が刺されそうだよな」
そう言いつつ、俺は握り締めていたシャーペンを机に置いた。
「……でもなぁ、こんだけアピールして何の反応もないのはおかしいで? いくら美人の西條とて、海賀でも及ばないくらい高望みするか?」
刀矢は俺が置いたばかりのシャーペンを勝手に
「さあな。モテる人が必ずしも本命に好かれるとは限らないし」
「それもそうなんやけど……なぁんか僕、そういうことじゃない気がするんよ」
俺が小首を傾げているのを見て、刀矢は続ける。
「別に海賀のことが眼中にないとか、嫌いだとか、そういうんじゃなくて……何て言うんかな、こう、遠回りしてるみたいな感じ?」
刀矢はまたペン回しを始めて、シャーペンを
「もう届きそうなんやけど、なんなら既に掴んでるんやけど、決定打には至らない、みたいな?」
「……すまん、何を言ってるかさっぱり分からなかった」
「そりゃないわ! 僕は真面目にアドバイスしてるんやで!?」
そうなのかも知れないが、ポエムみたいな発言されてもなぁ。
うーむ、反応に困る。
どう返事をしようかと迷っていたところ、国語教師がクラスに入ってきた。それを察知した刀矢、
「きりーつ、きをつけー、れいっ『お願いしまーす』」
学級委員の声に合わせて適当に号令を済ませる。
また着席し、教科書とノートを開いたところで──あれ?
「おい、シャーペン」
「ん? あぁ、すまん」
刀矢がまだ俺のシャーペンを持っていたので、席を引いて手を伸ばし、返してもらう。
……てか、号令の最中もペン回ししてたのかよ。気づけや。
俺は「ふぅ」と軽く溜め息をついた。
そして何気なく左の方を見た……のだが。
なんとそこには、身を
「……っ!」
暮葉はなぜか涙目で、窓際最後列の席に小走りしていく。
……あれ、もしかしなくても俺、避けられてる?
ぐぎぎぎ、とショックで固まってしまった己の首を回し、どうにか姿勢を正す。
──しかし、眼前にはにっこりと笑みを浮かべた刀矢がいて。
「バッドラック」
「せめてグッドラックだろ、ぶっとばすぞ」
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