第4話 ぶつかって恋の予感?
【暮葉side】
そろそろ授業が始まってしまう時間だ。
私は佐保子先生にお礼を言ってから保健室を出て、階段を登り、自分の教室に向かう。
「きりーつ、きをつけー、れいっ。お願いしまーす」
2年A組のクラスから、号令が聞こえてきた。
何度かこういう経験はあるけど、やっぱり「すみません、遅れました!」って皆の前で言うのは恥ずかしいんだよね……。
よし、バレないように後ろからこっそりと入ろう。
意を決して教室内に踏み入る。幸運なことにドアは解放されていたので、開けた瞬間に気付かれるリスクはないようだ。
身を屈め、慎重に歩を進める。
抜き足、差し足、忍び足……。
ちらっと黒板の方を確認すると、古典の先生は板書に夢中のご様子。これなら問題なく自分の席に着け──
「おい、シャーペン」
「ん? あぁ、すまん」
突如、目の前の椅子が引かれて私のこめかみを直撃!
「ふヴぇっ」
予期せぬ出来事に、「きゃっ」みたいな可愛い悲鳴を用意することもできず、
いててて、患部がじんじんする……。
あぁ、目がうるうるしてきた。
でも西條暮葉、あなたは強い子なの。ここで泣き出すなんて愚かな真似はしない。
今のところ誰も私に気付いていないんだし、このまま気配を消して前進するのみ!
……しかし。
ふとこちらを向いたかい君と、目があってしまった。
そうだったあぁぁぁあ!
この席、かい君が座ってるんだったぁあ!
え、何?
じゃあさっきの気持ち悪い「ふヴぇ」って声も聞こえてたってこと?
うわぁあ最悪だよっ──!
どうしよ、どうしよっ……。
──その時、私の脳内に選択肢が浮かび上がった。
>さいじょう くれは は どうする?
逃げる
逃げる
→逃げる
よし、逃げる!
選択肢(選択の余地はない)をノータイムで処理し、かい君に背を向けて一目散に窓際へと移動。いそいそと自分の席に着くのだった。
……ふぅ、とりあえずこの件は忘れよう。授業に集中しなくては。
「──えー、源氏物語ですね。ではまずは前回の復習から。この単語はなんて読むかを……今日は30日なので、目黒さん、答えてください」
先生が指名したのは目の前の女子生徒、
でも、素行に大きな問題は無いらしいし、その明るい性格からクラスのムードメーカーとしてA組を支えている人だ。……私はちょっと苦手なタイプだけど。
「えっとぉ、なんこれ?」
黒板に書かれた『上達部』という文字と
すると案の定、彼女はくるっとこちらを振り返って
「(ねぇ西條、答え教えてくんない?)」
まただ、指名される度に毎回答えを聞いてくるんだけど……。普段は話さないのにこういう時だけ都合よく使おうとしてくるのは何なの!? 私のことwi○i-pediaだと思ってる!?
……よぉし、今日こそは言うぞぉ。
全部人任せじゃ意味がないよって、バシッと言ってやらぁ!
「『かんだちめ』だよ、目黒さん(にこにこ)」
「あざーす。……『かんだちめ』でーす!」
今日もやってしまった……。
自己主張ができないという自分の弱みを再認識して、頭を抱える。
特に、目黒さんみたいな「ザ・陽キャ」の方には勝手に格差を感じてしまって逆らえない。悲しき陰キャの
……って、
私のばかばか! 権力に屈する根無し草!
そんな調子じゃ、いつまで経っても変われないじゃない。
空気を読むことが大事ってことは小学生の頃からよく知ってる。
しかし、だ。
自分の意見をはっきり言えなければ、ただの量産型イエスマンになってしまう。
それじゃあ単純なロボットと変わりないのだ。
それに、いつか大事なことを言いそびれて、取り返しのつかないことにもなり兼ねない。
だからその前に自分の弱点を
「あ、そうだ西條。そういや授業後に提出の宿題あったじゃん? まだやってないから写させて?」
「どうぞどうぞ(
手が、手が勝手に……ノートを差し出している!?
どうやら苦手克服は、もっと先の話になりそうです……はぁ。
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