第8話  捜索開始

現在僕は一年の別のクラスに来ていた。

出来ればこんなことしたくないんだけど、藍染さんと話をしなくては何もはじまらないから仕方ない。


 本当のところは藍染さんと親しくしてる人とかに協力してもらって運よく見つけることが出来たみたいにしたいけど、藍染さんには見つけることが出来るって言いきっちゃったし、藍染さんと仲がいい人も知らないし…。

という感じで、結局のところ僕と一緒に探してもらい、本人に見つけてもらうのが最も話がスムーズに進むと思うので藍染さんのクラスの前に来ていた。


 ただ、僕もばかではないので知らないクラスに踏み込むなんてことは絶対にしない。クラスの前というか廊下のクラスとクラスの相中で本を広げて見えずらいところで待っていた。

今日はいつもより早く起きて、登校するのも早めたのだ。

登校中でも、靴箱でも多くの生徒の目についてしまうのであらぬ誤解を生みかねないから、待つならここしかないと思う。


 おっ!やっと来てくれた。

藍染さんが廊下で騒いでいる連中の合間をうまい具合にすり抜けながら自分のクラスに入ろうとしたところで声をかけた。

「藍染さん。今いいですか?」

「えっ!?」

 僕が物陰から出て急に声をかけたので藍染さんは驚いた様子でこちらを振り返ったが、僕だと確認すると緊張した体から力が抜けるのが分かった。

「大丈夫です。ちょっと待っててください」

 それだけ言って教室に入って行った。


「話ってキーホルダーの事ですよね?もしかして、やっぱり探すのは無理でしたか?」


 僕たちはいつものように屋上に来ていた。藍染さんは不安に満ち溢れた表情で僕に顔を向けた。

「見つからないということは無いと思うので大丈夫ですよ。ただその件で、出来れば藍染さんがキーホルダーを失くした日の行動を確かめたいと思いまして。時間があるときに手伝ってくれませんか?」

 不安をあらわにしていた藍染さんの表情は、なるほどっと納得した表情に目に見えて変わった。


「確かにそうですよね!私が失くした日のことをちゃんと伝えてないのに探してほしいと言っても無理がありますね。....すみません、今まで気づかなくて…」

「ああ、いえいえ、気を落とすことでもありませんよ。僕も捜索をしっかり始めれるようになったのは今日からなので」

 藍染さんは安堵の表情を浮かべた。

「それなら良かったです。それで、実際に案内するのは明日でどうですか?」


 明日は土曜日で学校は休みなので、藍染さんに案内してもらうには時間があっていいのだけど…。。

「藍染さんの予定は大丈夫ですか?無理に時間を作ってもらうこともないので、時間があるときで構わないんですけど」

 藍染さんはにこっと僕に笑いかけて言った。

「私がお願いしたことですから、気にしないでください。どんな時でも、呼ばれたらすぐに飛んでいきますから!」

 どこかのヒーローが言いそうなことを笑顔で言ってくれたので、「その時は頼みます」っとだけ言って笑い返した。



 あの後藍染さんとは、土曜日の朝十時に近くの駅で待ち合わせする約束をした。

教室に戻り、机に座ると同時に、健が話しかけて来た。

「ケイ、また藍染さんに呼ばれてたのか?朝から呼び出しとはもてる男はちがうなぁ」

 本当にこいつの絡みはうざいなぁ。

健の方に顔を向けると気持ちが表情に出ていたみたいで、「いや、マジでごめんなさい、許してください」と健が素直に謝ってきた。

「今回は呼びだされたんじゃなくて、頼まれごとの件で僕から頼みに行ったんだよ」

「へぇー、ケイでも探しもので困ることってあるんだな」

 健は僕の中学時代を知っているし、健から頼まれたことも何回もあるので僕が見つけるのが早いのはよく知っていた。

「今回は特殊ケースみたいなものだよ。見つけた後が大変なんだ」

「ふーん、ケイもいろいろ大変なんだな。まっ、がんばれよ」

 健はそれだけ言って他の生徒に話しかけに行った。



 土曜日の朝はいつもゆっくり過ごすのが定番だったけど、今日は早めに起きて用意を済ませてから家を出た。

もうキーホルダーは見つかっているので、白に頼むことはないと思うけど、念のため白の機嫌がいいか、声はかけて確認しておかなければ。


「白、調子はどう?」

 いつもなら空中を飛び回っている白は珍しく、僕の服の裾を掴んで歩き、頭には(どこから持ってきたのか分からない…)赤いリボンのついた麦藁帽をかぶっていた。

白は僕の方を見て、コクっとうなずいたのでどうやら機嫌も良さそうだ。


待ち合わせの駅に行くと、藍染さんがすでに待っていた。

「すみません!遅れました」

「ううん、私が早く着きすぎただけだから」

 藍染さんがどのくらい早く来ていたのかは分からないけれど、待たせてしまったのは申しわけない。

そんな僕の考えとは違って、藍染さんは明るく「それじゃあ、お願いします」っと明るい声で僕を引っ張って歩き出した。



 そのまま二人で藍染さんの家に向かった。

藍染さんは公園やお店など周りにある物の説明をしながら教えてくれたけど、一度来たことがあるので全部知っていた。


「ここが私の家だから、ここからスタートだね。よし、それじゃあ…」

 藍染さんが門の前からお店に向かおうとしたので僕は慌てて止めた。

「すみませんが、一応玄関からスタートしてもらってもいいですか?」

「えっ?」


 藍染さんは少し困惑した表情を浮かべたけど、すぐにいつもの表情に戻った。

「あ!そっか、あの日と同じ行動をした方がいいもんね」

「はい。一応ですけど、何が関係してくるか分からないので、思い出せるだけ同じ行動をお願いします」

 さすがに僕が家に上がらせてもらうわけにはいかないので、藍染さんに一度家に戻ってもらって、玄関からスタートすることにした。


「それじゃあ、はじめるね。....まず、あの日は家を出てからお財布を忘れたことに気づいて一旦家にもどったの」

 そこからは、お店に行くまでの流れを思い出せるだけ細かく教えてもらったけど、最初の家に戻ったというところで出来れば気づいてほしかった。


 一度、藍染さんの家の前に戻って話し合いを始めた。

「どこにもみつかりませんでしたね。やっぱり、家をもっと探した方がいいのかもしれませんね」

 家の周りを確認してほしくて言ってみたけど、あまり効果は無かったようで。

「うーん、でも家の中は隅々まで探したし、やっぱり外だとおもうんだけどなぁ」

 藍染さんは小首を傾げて悩んでいた。

藍染さんをうまく誘導できないかと思っていると、後ろから「おーい」っと聞きなじみのある声が聞こえて来た。











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