第7話   意外な一面

 不慮の事故で学級委員長となってしまった僕は放課後の係打ち合わせの集会に有馬さんと向かっていた。

有馬さんとはこの高校から知り合っただけで(というか名前しか知らないのだけど…)、話したことも無いためコミュ力の低い僕に会話をすることが出来るわけもなく…。


 白のいたずらなのか分からない行為に振り回された結果がこれなのだ。

ほんっとに、白ー、覚えてろよ!!

何故か楽しそうに、歩幅の大きい僕に合わせてトコトコと急いでついてきている白を軽く睨みながら、この気まずい沈黙の時間を終わらせるために出来る限りばれないように速足で集会の場所に向かっていた。


 そんな沈黙の時間を破ったのは有馬さんだった。

「えっと、内田君。さっきはありがとね」

 うん?、さっきって何だろう?

有馬さんに感謝されるようなことをした覚えもないというか、今こうやって一緒に歩いてるのが初めての関りだと思うんだけど?

うーんっと、ピンときていない僕の反応をみてからか有馬さんは分かりやすくこう言い換えた。


「さっきの係決めのとき、自分から手を挙げてくれたでしょ?私、誰も手を挙げてくれなかったらどうしようかなってずっと思ってて」

 有馬さんは何かを気にしているのか、少し声のトーンが下がりながら続けた。

「私って昔からよく自己主張が弱いって言われてて…。自分から何かを決めるのが本当に苦手で、何かを決めるときには人に頼っちゃうんだ…」


 そこまで言ったときに自分が暗い雰囲気を放っていたことに気づいたのか、少し慌てて無理やり明るいトーンに戻して続けた。

「ご、ごめんね。初対面の人にこんな話して。えっと、つまりね、言いたかったのは、内田君は人のために自分から動ける人ですごいなってことで。あれ?私、お礼が言いたかっただけだったのに。えっと、えっと、何が言いたかったんだっけ?」

 言いたかったことを忘れてしまったのか、有馬さんはあわあわと慌てていた。


 こうやってみると係決めの後、周りの女子たちから、「有馬ちゃんだったら安心だよー」っと高い期待を持たれているこの女の子も自分と同じ、普通の高校生なのだと思えてきた。

フフっと僕が笑うと、有馬さんは顔を赤くしたあと、じとーっとした目つきで僕を見た。


「あー、今絶っ対、私のことばかにしてたでしょ!」

 ぷくっとふくれっ面で抗議する有馬さんは高校生の女の子らしくてとても可愛かった。

「いやいやまさか。ただ、慌てる姿が面白かっただけですよ」

「あー、やっぱりばかにしてた!」

 どうやら必死に否定したのはあまり効果が無かったようで、有馬さんは今にも破裂しそうな風船のような顔になっていた。


「ただ一つだけ言いたいのは、そんなに有馬さんの性格が悪いとも思わないってことですかね。人から言われたから、人に頼まれたから、有馬さんの行動が全て人の言葉を起点としていたとしても、僕から見ればそれはとてもすごいことだとお思うんですよね。だってそうでしょ。みんな自分のしたいこととか、必ず自分の意志はあるわけじゃないですか?でも、有馬さんはそれが自分の意志とは違っていたとしてもその人のために動ける人なんですよね。そうじゃないと、あれだけ人から信頼されるってことはあまりないと思うんです」


 最後まで言い切って有馬さんの方を見るとひどく驚いた様子で僕を見ていた。

やばい!!さっきまでの会話が楽しかったから調子に乗ってしまった!初対面の人間にこんなつらつらと言われてもうれしくないよね。

「いや、あの、今言ったのはですね。えっと、一般的にそうなのかな?みたいなことで…えっと、だから…」


 もう一度、有馬さんの方を見ると、くすくすと笑っていた。

「内田君って面白い人なんだね。もっと、なんにでも大人な対応が出来ちゃう人だと思ってた」

はぁー、笑われてしまったのが恥ずかしくて深いため息をついてから有馬さんに答えた。

「僕だって一高校生ですよ。いつでも大人な対応なんてできません」


 本当に恥ずかしい。顔が熱いし、耳まで熱いから、顔は今まで茹でられてたみたいに赤いのかもしれない。


 深呼吸をして気持ちを落ち着かせている僕に向かって有馬さんは明るい声で話し始めた。

「笑ちゃったけど、ありがとう。今までそんな風に言ってくれる人いなかったから、なんか恥ずかしくなっちゃった」

 横並びになって歩いていた有馬さんが前に飛び出し、くるっと回転して僕の方をみながら、えへへっと笑う姿は、夕日に照らされとても輝いて見えた。

やっぱりクラスで男子に一番人気な女子は一味違うなと納得していると、足にポスっと打撃が入ったような気がしたが、集合時間に遅れてしまうので気にせず、急いで向かった。

できれば、集合場所に着くまでに赤い顔が戻ってくれるといいんだけど…。



 はぁー、疲れたー。

結局、係の集合の話し合いは一時間掛かるほどで、これからの方針や抱負などを先輩方が説明する内容だった。


 係の集会で今日はキーホルダーの件は動けなかったな。でもまぁ、藍染さんも係の話し合いがあっただろうから、今日のところはいいとして。問題は明日からかな?

キーホルダーの場所を伝えるためには、自然に本人に気づいてもらうか、身近な人間に見つけてもらうかのどちらかが必要だと思うからその準備をしないといけないし、学級委員長の仕事もあるし。忙しすぎる…。


 ベットに横になっていると、部屋の隅っこで白が体操座りをしていることに気づいた。

「どうしたー白?」

白に近寄ると白は僕の方をちらっと見た後、プイっと顔を背けた。

ふむふむ、どうやら白さんは機嫌が悪いようで。今までこんなこと無かったのにな。どうしたのやら?

白の機嫌をどうにか直したいけど、今日は本当に疲れたのでまぶたが重くなってきた。

うん、今日は一旦寝て、明日の朝このままだったら考えることにしよう。

疲れが溜まっていたので、考えることを放棄して布団に入ると意識が薄れていくのが分かった。

そのとき、もぞもぞと布団に何かが潜り込んでくるのが分かった。少しだけ目を開けると、白が反対側を向いて寝ていた。

フフッ、関わってもらえなくて寂しかったのかな?幽霊が成長するのかは知らないけど、見た目は小さい女の子だからね。

僕はそのまま白を抱きかかえて抱き枕にしたまま眠ることにした。嫌になったら、する抜けるだろうし。

幽霊なので白に体温は無いが、なんだかぽかぽかした気分になり、とても心地よくてそのまま意識は途絶えた。

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