第4話 消えたポーチの謎
思った通り、真紀は二年生が使う更衣室に向かっていた。
二年生の女子が使う更衣室は、西棟の一番奥にあるため女子たちからのブーイングはいつも激しいものだった。でも今はその立地に感謝しかない。もしすでに、更衣室に入っていたら入ることは不可能、ゲームオーバー確定だったのだから。
ホッとして呼吸を整えていると、
「あんたたち、もうみてきたの!?」
真紀は慌てた様子で、英二の方を見た。
「いや、この内田君がどうしても確かめたいことがある、って言ってさ」
英二の言葉を聞いて、真紀が僕に今にも凍り付きそうな視線を向けたことが分かった。健と英二も僕の方を見ているけど、すこしだけ待っててもらいたいんだよね…。少し走っただけでここまで息切れするとは。もう歳かな?
明らかな運動不足による呼吸の乱れを抑えながら、慎重に言葉を選ぶ。
「聞きたかったことなんだけど、真紀さんは今日学校で携帯を触ってた時間帯が無かったのかなと思って。もしも触ってたなら、いつなのか教えてほしいんだけど…」
さっき聞いた時の様に、鬼の形相が立ちはだかるのではと心配していたが、今回は反応が違った。
真紀は何も考えていなかったのか、「へっ?」っと言って焦り始めた。
そんなときだった、返事をただ待っている僕の耳にまたあの音が聞こえて来た。
ブーブー、ピローロー
さっき聞いた音が、人がいなくなった校舎に響き渡り、四人全員の耳に入ったようだった。
英二は自分の携帯を確認したが通知は何も無かったようで、視線はそのまま真紀の方に向かった。
真紀の顔は青ざめていた。
二人の顔を確認してから僕はできる限り明るい声で四人に向かって言う。
「誰か携帯なってるよ」
「お、俺じゃなかったぞ」
英二は、真紀の方から目が離せない様子で言った。
僕は二人の様子を見て確信が持てた。どうやら、作戦は成功したようだ。
「もうこんな時間だし、今日は帰った方がいいと思うんだ。だから、英二君が見つけた場所の確認は明日でもいいかな?」
さっきまでの英二なら、僕を睨みつけてくるのだろうけど、焦りと動揺で、空返事しかできなくなっていた。
二人に挨拶して、まだ捜索を続けようとする健を引っ張りながら最後に一言だけ言わなければいけないことを思い出し、二人をあざ笑うように言った。
「あっ!そうだ、お二人は着信音が一緒なほど仲がいいんですね。これからも、気が合う者同士仲良くしてください」
振り返った一瞬だけ二人の顔が見えたが、ひどく驚いた様子でただ立ち尽くしていた。
健と二人で帰っている間も、健は悔しそうにつぶやいている。
「もうちょっと探せば見つかったかもしれないのになぁー」
僕はあきれて、ガクッと肩を落としながら深いため息をついた。
「僕の前でも騙されてるふりをするのはやめてくれる?」
健の動きが一瞬止まったが、すぐにいつもの調子に戻った。
「ケイ、気づいてたのか?」
「うん、まあね。....それで、今回はどうして僕を巻き込んでまでこんなことをしたのかな?」
健を睨みながら言うと健は慌てて弁明を始めた。
「いやー、俺も最初から騙されてるとは思ってなくてさ。ケイに頼んだ時にはまだ一生懸命探してたんだけど、別れたあともう一度真紀ちゃんに話が聞きたくて戻ったら、英二と話してる場面に遭遇しまして…」
「なるほどね。なら、今回僕を巻き込んだことは水に流すけど、なんであの二人に嫌われてるのさ?」
健は言いにくそうにしていたが、巻き込んでしまったのもあるため渋々話し始めた。
「この前さ、サッカー部のAチームとBチームで試合することになったけど、Bチームの一人が怪我して出れないからって言われて駆り出されたんだ。それで行ってみたら、まあびっくり、Aチームはレギュラーメンバーだけで固められてて、Bチームはレギュラーじゃない人たちのチームでさ。英二はAチームで真紀ちゃんも友達連れて見に来てたんだけどさ…」
健は言い終わる前に、言葉を止めたが、なんて言おうとしていたかはすぐに分かった。
「勝っちゃったんだね?」
健は下を向いたまま、コクンっとうなづいた。
まあ、いくらレギュラーメンバーじゃないとはいえ、うちの中学のサッカー部は強豪で有名だし、すごい選手がレギュラーじゃなくてもおかしくはない。その人たちとスポーツ全般で化け物と呼ばれる健が組めば鬼に金棒というわけだ。
英二と真紀さんからしたら気の毒な話である。怪我でキャプテンが不在って聞いてる現サッカー部において先頭を切ってる副キャプテン率いるレギュラーチームが、サッカー部でもない男が入ってるチームに負けたのだから。
まぁそれで、プライドをずたずたにされての逆恨みからこんな嫌がらせをしてるんだからうちのサッカー部の未来は明るくないことは確かだけど…。
「俺はさ、頼まれて了承しちゃってたから本気でやろうと思っていつも通りしただけなんだけど…。まさか、無失点で勝つとは思ってなくて…さ。だから、今回のことで英二たちの気持ちがおさまるならと思って」
ハァ…こいつのお人好しもここまでくれば病気だな。
「そのAチームとBチームの試合はもともと見世物だったように思うんだよね。力の均衡が取れていないのに試合をしてる時点でそのことはすぐに分かるし。そんなことをしてるやつらに情けは無用だよ」
健は少しは元気が出たようで、「うん。そうだよな」っと言った。
「これからもなんかあったら言ってくれよ。その時は僕も全力で協力するから」
それを聞いて健は歯を見せて笑って、肩に手を回してきた。
「持つべき友は、お前みたいなやつだよなー」
「やめてくれよ。恥ずかしい!」
次の日からは英二たちが健に嫌がらせをすることも無くなったらしい。
あのとき、僕の携帯の着信音を英二に合わせて変える作戦が成功してよかったとつくづく思う。
あれだけのバカップルだからもしかしたらとは思ってたけど、予想が外れてる場合はどうしようかと内心すごく焦ってたのは事実だしね。
この事件後から、僕は健に協力することが増え、白の力についての知識も増えていった。
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