第2話 2116年04月24日曇り

2116年04月24日曇り


大昔はこの通学路にも多くの店が有ったという。

本屋、文房具屋、ラーメン屋、焼き鳥屋、駄菓子屋なんてものもあったらしい。

今は住宅地、家ばかり。


「パパただいま」

同じクラスのチョロを連れて小学校から帰った私は居間に入った。


父は「お帰り。チョロ君、家に帰ってから来たのかい?」と言いながら居間の中央まで進み、

「シックス」

と呼びかけた。

返事が無い事を確認してから今度は

「パウダー」

と呼びかけると。

「はい」という合成音声がそこにいる様に聞こえた。

「シックスは居るか?」

「さっき まで 居ました」

父は何故執事であるシックスが居ないのか理由を想像してる様だった。

「風呂の追い炊き制御システムのチェックソフトの更新が月末にあるので

調整に手間取ってるのかも知れんな…」とつぶやき、

「パウダー、シックスが戻ったら…」

「もどり ました」言い終わる前に合成音声は割って喋る。


父は部屋を見回すと、すぐ後ろにスーツを来た小太りの男が眉を上げて立っているのに気づいた。

「シックス、私は出かけるので息子の面倒を見てやってくれ」


小太りの男は答えた。

「あんたの留守の間シックスはちゃんと子供の面倒を見るだろうよ」

他人事の様に話す口調だったが

父は何も気になってない様子でそのまま居間を出た。

父がドアを閉める直前「ああ完璧にな」と部屋の中央の男以外の声が聞こえた。


私はチョロと父が閉じるドアが閉まるのを待っていると、

「おかえり」とかけられた声に振り向く。

テーブルを囲んで四つある一つの椅子に、たった今部屋の真ん中に居た筈の小太りの男が深く腰掛けている。


「ただいま」と答え横を通る私と、後ろに続くチョロを目で追う。

チョロが言う「シックス、今日は一人なの?」

小太りの男は「今は私だけで問題ない」とにっこり。


居間の隅で私はチョロに今日の予定を確認する。

「今日は何処迄行く?」


二人が「地下道探索」と呼んでいる遊びは

今では珍しい商店が地下街には多く有り、中でも古本屋を捜しに行く、

これがもっぱら楽しい。


私の部屋迄行き、

チョロが言う「10ブロック迄は大体制覇したよな、12位迄行こうよ」

悪くないが、門限迄に帰れるか不安になり、それを伝えると、チョロが提案する。

「パウダーに車作らせろよ」


私は少しイラっとした。ベビー・パウダーが作ると言っても材料費は私が払うからだ。

今月の残高の事を考えると結構高い出費になる。


スケッチブックが部屋の何処に有るか知っているチョロは勝手に取り出し、

オートバイの上に怪獣の上半身をくっつけた様な絵を描いている。

私はそれを見ながらチョロの家には執事が居ない事を想い出した。

チョロは車が欲しいというよりもシックスが面白くて

そのやり取りを見る事が楽しかっただけかもしれない。


気分も戻り、12ブロック先へ歩いて戻る道のりを考えると車も悪くないと思って声をかけた。

「パウダー、こんな車を作ってくれ、5マンエン以内で」

「はい」と答えたが聞こえた後、

私は絵を天井のカメラに向けた。取り込むのに時間が掛かるのか少し間が有って

「設計に 入ります」と合成音声が聞こえた。


「行こう」とチョロが言い、二人は急いで居間に戻る。

私がさっき小太りの男が座っていたテーブルに目を向けると、

囲んだ4つの椅子に男が四人座っている。

四人とも全員スーツ姿で小太り、顔も全く同じである。

チョロは大声で笑っている顔をしたが、口だけ空けて声は出てない。

四人の会話を聴きたい様だ。


「ええとエンジンの燃料はやっぱりガソリン?」

「デザインがいいね、これゴジラ?ハッハハ」

「割とスピード出る様だ時速50キロ?」

「操縦系は音声入力完全自動でしょ勿論」

「ナビは無理だなこりゃ」

四人が受け答えする事は無く、一斉に独り言を言っている様に喋る。

四人の声と一風違った甲高い声が混ざる。

「危険だよ」

四人は聞こえないのか無視してるのか喋るのに必死で耳を傾けない。

甲高い声は聞き入れてもらえずイライラしたのか少し大きな声で

「死ぬよ」

と言うと一瞬の静けさがありスーツ姿の男四人の顔がこわばる。

静けさはほんの一瞬で

「なんだと?」

「それじゃあ駄目だ」

「あーいかんいかん」

「全部作り直しだ」

とまた矢継ぎ早に喋る。

ブラックアウト。



転生の波に飲まれながら、

初めて家に来たチョロにした説明を想い出す。

「シックスは、常時受け答えするパウダー、そして姿の有る4人の実務係りがいて、最後に4人にツッコミを入れる役目の6番目の人格でなりたってるんだ」


クソッ。また転生だ。

産まれて10年しか経ってないが、それでも10年分の記憶はしっかり有る。

チョロと遊ぶ様になって2年。まだ行ってないブロックがあるのに…。


これもヤツが、私を転生症にした所為だ。


転生症になる前は、当然名前はひとつだけだった。

ひとつだけの誕生日、一組だけの家族。一過性の年齢。

それが転生症になるとあらゆる年齢、人種、土地(地球ですら無い場合も有る)へ転生してしまう。

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転生症日記 スワスチカ @swastika

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