転生症日記
スワスチカ
第1話 2121年06月21日雨
2121年06月21日雨
私は新宿のレストランに向かっていた。
その店に行く理由は、今日とあるパーティが開かれるんだが、それに参加する為だ。
このパーティの参加者のリストは聞いてない。
だが、誰が来るか、それは解りきっていた。
彼と縁の深い人たちが来るだろうからだ。
良神さん、栗山くん、奈良、榊さん。
あと本当はこんな事でもなければ会いたくも無い、
というかこんな時であろうと会いたくも無い山陰も絶対に来る。
長年この山陰の管理者をして散々振り回された過去が有る。
仕事と思って我慢した数十年だった。想い出したくも無い。
私と山陰だけじゃない、
彼が居なくなる事によっていくつかの関係が崩れてしまった。
気が合わない者同士でも、平和主義で世話好きの彼のお陰で、
彼の仲裁でなんとか関係を保たせていた。
そんなパワーを持ったヤツだった。
きっと彼の一番目の奥さんだった森野さん---今の名字は忘れてしまった---も来るだろう。
それから二番目の奥さんのリリコさんとその息子。
元恋人、元奥さん…というか、全ての関係性が「元」で語られてしまうんだが、
それぞれ彼との関係がかつてあり、それぞれの想いを抱いてあれからの年月を過ごして来た。
それから彼の最後の恋人となった踊子さん。
彼が死ぬ1年前に付き合い始め、1年後に彼は突然事故で死んだ。
今日皆が集まる事になったのは、
彼…石森が目覚める日だからだ。
夢の様な話しだ。
死んだ人間と会える様になるなんて。死んだ人間が生き返るなんて。
クローン体でもない、正真正銘、あの石森が、オリジナルのボディで生き返る。
全てではない、生き返るにはいくつかの条件があるらしい。
火葬されていない事。遺体の損傷状態、一等親の施行書の署名等の項目のクリアと、
施行する為の高額な資金を支払う事が可能であれば。
石森とはもう40年の付き合いだ。
石森が死んでから私は石森を想い出すと怒りが湧いていた。
おおらかであるが故、穴だらけでいい加減な彼の行ないに対して大分私は腹を立てていた。
しかし後年、石森の調子が悪くなって、言いたい事を全て言うのは酷だ、と
彼の調子が良くなったらちゃんと喧嘩をしようと期待して待っていた。
それをあいつは勝手に死にやがって。
この怒りを持ったままパーティ会場に入るのが怖かった。
会場で石森を囲んだ皆、とても嬉しそうだ。
皆涙を浮かべている。
私はなんの躊躇も無く石森の肩を叩き、悪態をついた。
「てめー、勝手に死にやがって」
言った目に涙を浮かべて。
突然ブラックアウト。
私はさっき迄2021年に居た。
私は転生症だ。
転生症にされてしまった。
ヤツだ。
私を付けねらう。ヤツに転生症にされてしまった。
外食した時に、厨房に潜り込み薬を混ぜたのか、
街中で人にぶつかった瞬間の痛みに乗じてサリンジュで打ち込んだのか、
寝てる間に麻酔し、転生症手術をしたのか解らないが。
折角石森に有ったのに。また転生させられる。
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