263;全体会議.02(シーン・クロード)

「やぁ、漸く来たね」


 ミカが予め用意してくれていた〈転移の護符アミュレット〉を消費しつかって、俺達は【夜明けの戦士ヴォイニ・ラスベート】達の待つ全体会議会場へと遅れてやって来た。

 ミカとダルクの喧嘩が思いの外長引いてしまい、本来であれば間に合った筈だったんだが――なんて、とても言えやしない。


「遅れて済まない」


 原因の片割れが頭を下げる。その隣で筋肉髭ダルマがバッチンとウィンクした。


「いや、構わないよ。結構急だったから、君達の他にも何組かは遅れて到着したんだ」

「そう言ってくれると助かるよ」

「それで? 会議の進行状況は?」

「全然。始めたいけれど、あと一組、絶対に外せないグループがまだ来て――」


 ガチャン。


 俺とニコの遣り取りを割り裂いて、大袈裟にも程がある後方の扉が開かれた。


「遅れて悪かった――――ぴょん」


 ロア――言わずと知れた、【七刀ナナツガタナ】の首領リーダーだ。

 長身痩躯に纏った黒光りする外套、青白い肌に短く切り揃えられたスポーティーな真っ赤な髪、そして鼻から下を覆う下半面マスク。背に負うのは彼女の代名詞、剣と弓とに形態変化する固有兵装ユニークウェポン〈ブラックウィドウ〉だ。

 その後ろには一回り小さい、ボロ布を纏った浅黒い肌の戦士。あいつは、確か――


「ルドラ……【七刀ナナツガタナ】のナンバー2……」


 ミカがボソリと呟く。

 半ばはだけた精悍な肉体美に、筋肉髭ダルマも目に妖しげな光を灯してべらりと舌舐め擦りをするが、果たしてそれはどういう意味なんだろうか……いや、見なかったことにしよう。


「いや? 彼らだって今来たところだ。でもこれで、大方全員が揃ったね。じゃあ、始めるとしよう」


 会議室かと思えば、転移して来た先はこのだだっ広い空間だ。

 周囲に摺鉢状の観客席が見えるのは、ここが闘技場コロッセオだったんだろうことを示唆している。

 だが石床は所々が欠けて罅割れ、とてもじゃ無いが現役の場所じゃ無い。大方それを、買い付けたか借り受けたかのどっちかだろう。


 闘技場コロッセオ中央には円形の舞台があり、俺達はそこに設けられた馬鹿みたいにデカい円卓に輪になって着く。

 俺の隣には心なしか心ここに在らずのセヴンと、その隣にはジュライ、その向こうにミカ、ダルクと続いて、ルドラ、ロア。

 逆サイドには千葉と、恐らく立花師匠とか言う奴。その向こう側は――知らん奴ら。だがレイドには参加していた筈だ。

 って言うか、【正義の鉄鎚マレウス】と【七刀ナナツガタナ】を隣同士に配置するとか、頭沸いてんのか? まぁ、ダルクを間に挟む辺り何も考えてはいなそうと言うことは無いんだろうが。


「さて、大変お待たせしたね。それじゃあ全体会議を始めて行こうと思う。先ず初めに、この会議の目的――――と、行きたいところだけど」


 一人立ち上がったニコが小さく溜息を吐いた。いつもの微笑み絶やさぬ優男の表情も、流石に青みがかっている。


「その前に、やはり僕達の置かれた現状を正しく理解する必要があるよね。どうしてログアウト出来ないのか、その前にどうしてログインされたのか、どうしてそうじゃないプレイヤーもいて、限られたプレイヤーだけが今もヴァーサスリアルに興じているのか」


 しん、と静まり返る空間。だが誰しもの目はニコに向いていた。

 誰一人として、その答えを求めていない者は――いや、ロアとルドラは違うか。あいつらは元よりログアウト、ログインなんてシステムからは外れている。何たって“死んでる勢”だからな。ジュライもそうだが。


、と言っておこう。僕だって何もかも真実を見聞きして来たわけじゃない。それに、ここにいる殆どのプレイヤーなら、システムメッセージを受け取っている筈だ」


 、と言われれば思い当たる節は一つしかない――レイドの後、経験値の分配を受けてレベルが100を超えた者全てに届けられた、不穏にも程があるシステム通知メッセージ



◆]特典3:

  真実を閲覧する権限が付与されました。

  特定のクエストクリア後、指定された地点へ

  到達することでこの権限は行使可能です。[◆



「この世界に残留した内の139人が、特定クエスト攻略クリア後に指定地点に到達することで真実が得られる――――眉唾物だけど、最終的な答え合わせは用意されている。だから僕の仮説は正解か不正解かは勿論今は判らない」

「まだるっこしいな、さっさと言えよ」


 不躾にそう言えば、ニコは困ったように微笑んだ表情のまま一つ深呼吸をし、全員を見渡して一人一人と目を合わせた。

 そして。


「僕はね、――この世界の方が“現実”なんじゃないかって、そう思」

「それは無いぽよ」


 ロアが発言した。と、言うか――――アイツのその口調を知ってる奴がどれだけいるんだ? この円卓に着く三十人強の面々の、半分以上がきょとんとした顔しているけど!?


「この世界は現実なんかじゃ無いすふぁ。れっきとした現実っぽろんちょ。あーしにはわかるぴょん」


 遅れてやって来た時は、殆どの奴が円卓に着いていて入り口近くにいたのは俺達ぐらいのものだった。千葉はいたが、あいつエンジョイ勢だしな。


「ロア。君はもしかして、」

「いーや、まだぬん。でもあーしは、そのクエストがあることも、時が来たらいずれ攻略に乗り出さないといけなくなることも、知っているぽよ」

「そ、そうか……」


 え、ってか、ニコだってロアのこの口調知らないんじゃねぇか? 【夜明けの戦士ヴォイニ・ラスベート】の全員ちょっと引いてるじゃねぇか!


「ま、まぁ僕の仮説が早々に打ち砕かれたんだけど、――でも、こんなドキドキハラハラが過ぎるのが現実じゃ無いのはちょっと安心する。さぁ、現状把握を続けよう」


 パン、と手を叩いたニコ。ロアに面食らった気持ちを切り替えたんだろう。

 ニコが説明しながら、アイザックが広い円卓の上に立体映像ホログラムを説明に合わせて次々に表示していく。

 現在の残留プレイヤー数。

 その中でレベル100を超えた数。

 四大国のプレイヤー分布。

 そして、九曜封印の現在状況。


「鎮星封印と羅雲封印が解け、辰星封印はダーラカ王国の管理・保護下にある。ちなみに、各封印の在処まで辿り着けている人は?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る